《MUMEI》

窓ガラスに映った猪俣の目は、鬼神の如く吊り上がっていた…。



その背中に滲む怒りと、余りにも深い悲しみを察した加奈子はハッとなる…。



此処に居てくれる筈の直美の姿が無いことが、堪らなく不安に感じられた。



『…義兄さん…姉さんは…?』



か細い声で問いかける…。



猪俣は只黙っていた…。



言うべきか否か迷っているようにも思えた。



時計の秒針の音だけが、二人の間に流れてゆく…。



長く…重苦しい沈黙だった…。



『…直美は……………………。』



猪俣はボソリと呟いた。



その言葉を耳にした瞬間、加奈子の意識が遠くなった…。



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