《MUMEI》
密室
れおんはフロントに戻った。
「何ですか?」
「何ですかって、彼氏は?」
「あ、泊まるのはあたし一人なんです」
「一人じゃ入れませんよ」
「え?」
れおんは吾郎の顔を見た。吾郎は無言で立っている。
「なぜ一人じゃダメなんですか?」
「決まりだから」
れおんは困った。彼女が黙っていると、フロントがせかした。
「どっち。入るの入らないの?」
「キャンセルします」
れおんがキーをフロントに返すと、耳を疑う言葉。
「はい、12000円です」
「はあ?」れおんはフロントを睨んだ。
「12000円です。払えないなら事務所に連れてくよ。いいの、お嬢ちゃん」
脅されている。れおんは悔しかったが慎重になった。怖い思いはもうたくさんだ。
「泊まってないのに払うんですか?」
「キー受け取った時点で宿泊料発生するからね」
れおんは札をぶん投げたい衝動にかられたが、本当に事務所に連れて行かれたら困るので、12000円を払った。
「毎度あり」
れおんがムッとした顔で出ようとすると、吾郎が止めた。
「お金もったいないよ」
「仕方ないでしょう」
「外は危険だ。またあいつらに出くわしたらどうする?」
「どうするって言われても」
「そんなに僕が信用できない?」
吾郎が哀しい目で見つめてくる。れおんは唇を噛んだ。
「あいつらよりも僕のほうが危険なんだ?」
「違うわ」れおんは即否定した。
確かに吾郎は体を張って守ってくれたのだ。れおんは吾郎を真っすぐ見た。
「絶対間違いを起こさないって約束してくれます?」
「もちろん」
れおんが俯く。吾郎はフロントに言った。
「やっぱり泊まります」
「そう」
キーを受け取ると、吾郎はれおんの肩を抱き、エレベーターに乗った。
れおんは神妙な顔つき。賢吾との約束を完全に破ってしまった。
部屋は5階。静かな廊下を歩く。吾郎は慣れた感じでキーを差し、ドアを開けた。
さっさと部屋に入る。れおんはドアを閉めたものの、部屋には入らず吾郎を見つめた。
「吾郎さん」
「何?」
「しっつこいと思われるかもしれませんが、朝まで絶対何もしないって、約束してくれますか?」
吾郎は穏やかな笑顔を向けた。
「僕を信じて」
れおんは部屋に入った。吾郎はガラステーブルの上にキーを置くと、ソファにすわった。
「れおんチャン何か飲む?」
「あたしはいいです」
「シャワー浴びる?」
「いえいえ。吾郎さんどうぞ」
れおんはベッドを探した。ありがたいことに奥に個室があり、その中がベッドルームになっている。
「吾郎さん。あたし具合悪いんで、ベッドで寝てもいいですか?」
「大丈夫?」
「横になれば大丈夫だと思います」
具合は悪くなかった。しかし体調不良と言ったほうが、襲われる危険は少ないと思った。
れおんは個室に入るとバッグを置き、すぐにベッドに潜り込んだ。
吾郎が来ないかと警戒したが、その気配はない。とにかく朝まで油断はできない。
さすがにワンピースで寝るのは落ち着かない。れおんはソックスを脱いで裸足になった。
「……」
息をひそめて吾郎の様子をうかがう。個室からは向こうの部屋が見えない。
シャワーの音。れおんは耳をすませた。シャワールームのドアが開く。れおんはじっとして吾郎の動きを想像する。
ソファに寝たのだろうか。安心はできないが、れおんも目を閉じた。
寝付けない。寝ないほうが安全とも思えた。ホテルは完全に密室だ。襲われたら逃げられない。同意のもと部屋に入ったのだから言い訳はだれも聞いてくれないだろう。
しかし眠りたい気もしてきた。やはりワンピースでは眠れない。
れおんは上体を起こすと、ワンピースを脱いだ。
下着姿は危ないか。早朝起きてすぐに服を着ればいい。れおんは目を閉じた。
音。
れおんは目を開ける。
「れおんチャン」
ドキッとした。
「何ですか?」
「起きてる?」
「何ですか?」

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