《MUMEI》








少しして惇のお袋さんが病室に戻ってきた。






俺が居る事を知っていたのか、ただ黙ったまま深く会釈された。





凄く慌てて来たって感じ。



あの時見た、びしっと整えられた和服でもメイクでもなく、うちの母さんが休日によく履いている様なパンツにセーター。



メイクも全くしていない。





平山さんとおばさんは少し言葉を交わした後二人病室を出て行った。







なかなか戻って来ない…。


重要な、これからの話をしているんだろうから当然なのかもしれない。





そして惇の事でお互いに知りうる事を話しているのだろう。





この年になっても俺達はちっぽけな子供でしかないんだ。





いざとなったらずっと年上の大人が出てきて物事が進もうとする。





俺達は悩んだり苦しんだり悪あがきしながらやっとの思いで生きていたりしているのに……。



常識という名のものさし。




一番当たり障りのない解決方法が、俺達の感情を至極簡単に





嘲笑う。




「…惇、俺さ……

やっぱり秀幸いねーと駄目なんだ…
俺すっげー勝手だな〜…、




俺さ、お前達がころころ悩んだりしてんのどっかで馬鹿にしてたんだよな〜、うん…、…

でもな、俺も一緒だった…、
俺……、大切な奴全員まとめて傷つけたんだな……、
は〜……、

もう自分が馬鹿すぎてやんなった…




つーかさ、一番真面目な惇がぜ〜んぶぜ〜んぶ背負い込んでんだろ、

のーてんきな俺達の分みんな吸収してたった一人で辛い想いしてんだろ…、


バッカだな〜…
気い抜けよ、もっとわがまま言えよ、俺だって隆志だって……、兄貴らだって……
殴りたかったら遠慮なく殴ればいーんだ……って…、俺は何が言いたいんだか…」




「……裕斗…」





「……なんだよ、いたんかよ……」





「…、うん、」





「…どこ行ってたんだよ……」





「…喫茶店」




「あ〜そう…」





隆志は俺の隣に座り、そして惇の手を両手で握った。






「裕斗…、俺決めた」



「……ん?、」

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