《MUMEI》
ビターチョコレート
―バンッ!!―
急いで屋上に来た私は、勢いよく扉を開けた。
「ハァ…ハァ…」
「びっくりした。吉野さんか。どうしたの?」
そこにはチョコレートを食べながら、呑気に寝そべっている柳田がいた。
私のこの緊張がほぐれてしまうらい、のんびりした彼のオーラ。
「あれ?甘いもの嫌いじゃなかったっけ?」
いきなり真由子の話をするのも気が引けたから、まずは違う会話でワンクッション置く事にした。
「うん。でもビターチョコは特別。」
「そうなんだ…」
いきなり会話が終了。
沈黙がここまで怖いものだとは思ってもみなかった。早く本題に入らなくては…焦る気持ちとは裏腹に、なかなか切り出す事ができない。
「あのさ…」
先にこの沈黙を破ったのは柳田の方だった。
「何か話があって来たんじゃねぇの?」
まっすぐ私の目を見ながら問い掛けてくるからドギマギしてしまう。
「真由子…振ったのね…」「うん。」
「他に好きな子いるって」「あぁ、聞いたんだ?」
何の動揺もせず坦々と、まるで決められたセリフを読み上げる様な言い方に、私のペースは乱されていく。
「誰なの…?」
「…友達に聞いて来てとでも頼まれた?」
溜め息混じりに吐き出すそのセリフは明らかに迷惑そうで、柳田の空気が微妙に冷たくなった気がした。
「別にそんなんじゃないけど…」
「じゃあ興味本意?」
「違う!!」
私はムキになって否定した。「だったら何?そんなの聞いたところでアンタには関係ない事だろ?」
「それはっ…」
続きが中々出てきてくれない。関係大ありなのに。

「それは?」
言葉に困る私を、柳田は問い詰めるようにじっと見つめてくる。

もう限界だ。

「好きだから…。私、柳田君の事が好きだからっ!その…気になっちゃって…」最後の辺りは、もう殆ど声になっていないかの様に小さくなっていた。

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