《MUMEI》

「……自己陶酔?」

まさか、一日に同じ映画を二回見る羽目になるとは。


「違うの、これにはふかーい訳があるんです。昔々あるところに……」

真顔でお伽話を始めた。


「あ、映画始まるから。」

予告を観るのは好きだ、短いから。
暗い閉鎖空間で長い映像は苦痛だ。
この映画、前半はゆるーい家族ドラマだ。
陸上部で短距離走をしている名の知れた女子高生と同じ学校に通う病弱な図書委員の同級生の男子高生の二人が突然兄妹になるという話から始まる。
この辺りがついつい眠くなってしまったんだ。


「見て、俺の読んでる本は実は五千円札の人が書いたたけくらべっていう本なんだよ。
監督と話して片思いの相手に気持ちを伝えられないことや、作者の儚さが映画のイメージに合っていたから読んでいるんだ。」


「へぇ、そういう見えないとこ工夫してるんだな。」

そう考えると単調な話も中身があるように思える。


「そうだよ、図書室の窓際からは日が差して陸上部の練習風景が一望できる。日陰の中で想いを募らせていたんだ。」

俺が眠そうにしていたせいなのか高遠が解説してくれた。
そうか……映画って沢山の人間が人間を作るんだ。
俺は観ることで一人の人間になっている。


「恋愛話だけどこの映画のテーマは家族なんだよ。
俺の役は母親が病死してしまって体の弱い母親とあまり一緒に居られなかった。だから新しい家族を大切にしたい、そこにたとえ愛する人がいても。」

隣では生解説が聞こえるという豪華仕様だ。

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