《MUMEI》

柳田は黙り込んだままだった。何を考えているのか全く予想できない。
今どんな表情をしているのかも分からない。
私はずっと俯いたままだったから。

暫くの沈黙が続いた後、ようやく柳田が口を開いた。「吉野さんチョコ好き?」
「はぃ?」
予期せぬ言葉に、つい変な声が出る。
「コレ旨いから食ってみ?」
何?訳わかんない!
私の告白から話逸らすつもりなの?

「今そんなの関係ないじゃん!ちゃんと返事きかせてよ!!」
「うん。だからさ、取り敢えず口開けてくんない?」「何なの?ほんと意味わかんない!」
「いいから、早く!!」
ムキになっている私を宥めるわけでもなく、逆に強い言い方で言うから、仕方なく従う事にした。

一体何?

不本意ながら口を開ける。「…これでいいの?」
私は板チョコが調度入る位の口を開けた。
「そのままね…」
「…………」

…え?





―んんっ!!!?―

「なっ…何!?」
いきなりの柳田の行動に心臓が破裂するかと思った。「口渡しだけど?」
「じゃなくて!なんで…」自分が何してるか分かってるのかコイツ…!?
私はもうパニックだ。

「それが俺の返事なんだけど。」
「へ?」
度肝を抜かれた。
まさか返事がキスだとは…
「それってOKって事?」
「だな。」
「じゃあ好きな子っていうのは…」
「うん。友香の事。」
初めて柳田に下の名前を呼ばれた。
何だか恥ずかしくなって顔が熱くなるのが分かる。
「チョコ旨かった?」
「え?そんな…わかんないよ…」
ビックリして味わうどころではない。
「じゃあ…」
「ん……。」
また口渡しだ。
何だか気持ちいい…

『持つべきものは友達だよね…』
あの時の真由子の言葉がよぎる。
ごめんね真由子。裏切っちゃった。

私は後ろめたさも忘れ、今は柳田の温もりに包まれることにした。

今日、また一つ秘密ができた。
―終―

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