《MUMEI》
唯一優れたもの
「で? お前、愚痴りに来たのか?」


志貴の試合終了後、立ち上がりながら俺は頼に訊いた。


ソフトボールも志貴の活躍で、全勝だった。


「あー、厳の奴が決勝だけでも来てくれって。志貴と祐也に」

「…私も?」


意外な指名に志貴が首を傾げた。


「『文化祭の時、散々な紹介されたから、たまにはかっこいい俺を見てくれ』だって」


頼は棒読みで伝言を伝えた。


「あぁ…」


俺はさっぱりわからないが、志貴には心当たりがあったようだ。


「じゃあ、第二体育館行ってやって」


そう言うと、頼は第二体育館とは逆方向に歩いていった。


「何あれ?」

「あー、頼はバスケ…多分負けたから」


球技全般が苦手だとは言わず、俺は言葉を濁した。


「ふーん」


志貴はそれ以上何も言わず


俺と第二体育館に向かった。


そこには


「キャー、厳君素敵!」

「かっこいー!」


体育館にいるほとんどの女子から黄色い声援を浴びている厳がいた。


スコアを見ると、厳のクラスが圧倒的に勝っていた。


…決勝とは思えない点差に、少し驚いた。

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