《MUMEI》
家族
れおんは暗い雰囲気を払拭した。
「院長ってあたしをマッサージするとき、エッチな気持ちで触ってんの?」
賢吾は乗ってきた。
「わいはプロやで。レントゲン技師やドクターと同じや」
「じゃあ安心ね。ヤらしい気持ちで触られていたら怖いもん」
刺激的な会話に、賢吾の理性は全員出動を余儀なくされる。
「じゃあ、シャワー浴びてくんね。待っててね」
れおんは軽い足取りでシャワールームへ行った。賢吾は頭を振る。
「アカンアカン」
れおんはシャワーを浴びながら思った。
(院長、今は独身なんだ…)
賢吾は無表情で和室に布団を敷いていた。
「ん?」
賢吾は布団を見ながら考えると、いきなりカメラ目線。
「これセクハラ通り越してわいせつ行為ちゃうか?」
「お待たせ」
バスタオル一枚のれおん。警戒心皆無の彼女を見て、賢吾は呟いた。
「同意のもとやからええのか」
「何?」
「独り言や」
れおんはうつ伏せになった。大胆というよりも、間違いを起こしても構わない勢いを感じ、賢吾のほうが怯んだ。
「お嬢はホンマにセクシーやな」
「嬉しい。もっと言って」
「準君も参ってたやろ」
れおんの顔が急に曇った。
「お世辞でしょ」
「本気や」
れおんが黙ったので、賢吾は話題を変えた。
「お嬢。タオル取れば、ワンランク上の極上マッサージが体感できるで」
れおんはまた笑顔になる。
「全裸は恥ずかしいよ」
「旅の恥はかき捨てゆう言葉を知らんのか?」
「だから旅じゃないって」
「旅や」
賢吾はバスタオルを掴むと、下に下げていった。れおんは下半身がキュンとなるほど緊張したが、抵抗しない。
「お尻には掛けといてください」
「お尻に指圧?」
「そんなことしたら翌朝デスクの上に辞表が置いてありますよ」
「それはダメや」
賢吾は裸のれおんに、指圧から全身ソフトマッサージ。
れおんはうっとりした。
「気持ちいい。上手過ぎる…」
「これでも手加減してんのや。わいが本気出したらお嬢なんかイチコロや」
「イチコロにしてみて」
賢吾は慌てた。
「お嬢。普通悔しいんちゃうか?」
れおんはセクシーな身のこなしで仰向けになると、両腕で胸を隠した。下は賢吾が慌ててバスタオルで隠す。
「どないしたん?」
「ボディマッサージ対決またしたくて。今度こそ耐えてみせる」
「お嬢、待ちや」
賢吾はれおんの体に掛布団を掛けた。
「何してんの?」
れおんは驚いて賢吾を見つめる。
「きょうはこの辺にしとこう」
「あたし、そんなに魅力ないですか?」
「ないな」
れおんは上体を起こして賢吾の腕を掴む。
「ごめんなさい院長。もうしないから、そういうことは言わないで」
賢吾も気まずい雰囲気を避けた。
「どうぞ、ゆうたら燃えんゆうたやないか」
「あっそっか」
れおんは両手で掛布団を握りしめると、賢吾に言った。
「院長、あたし全裸だから、絶対布団は取らないでね」
「その調子や。そう言われると潜り込みたくなるやろ?」
「変態」
「だれが変態や!」
賢吾は本当に掛布団に潜り込んだ。
「きゃあああ!」
れおんは笑いながら慌てふためいた。
「マジびっくりした。犯されるかと思った」
賢吾も火遊びに酔った。
「お嬢なんか、わいが本気で攻めたら、のたうち回ってしまうわ」
れおんは甘い顔を向ける。
「ちょっぴり怖いけど、のたうち回るってどんな感じか、されてみたい気もする」
賢吾は心底心配した。
「お嬢」
「嘘嘘」
賢吾は布団から出た。れおんはまだ裸で寝ている。
「院長、再婚は?」
「もう家族はええ。どんな苦難も、家族で力合わせれば乗り越えられるんや。しかし人間は弱い。苦しいと人のせいにする」
れおんは胸を布団で隠しながら、上体を起こした。
「狭い部屋で言葉凶器にして傷つけ合う家族なら、いらんやろ」
「…院長」
「今は賢吾ファミリーを大事にする。れおんもファミリーの一員や」

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