《MUMEI》
・・・・
 自分の気持ちを押し殺して、処刑台に上げられた少女の顔を見ていた。涙をこぼす少女は絶対の無実だ。
 助けたい気持ちでいっぱいだった。だけど、それは許されない。自分は軍人。一人の男である前に軍人なんだ。俺は多くの人の命を救わなければならない、これからずっと。彼女たちの数千倍もの命を。

 言い聞かせる、動くな動くな動くな動くな動くな動くな動くな―――――――――。

 火が彼女の足元へ移されるその時、俺は目をそむけていた。そうしなければ命令もむなしく彼女を助けるために動きだしそうだったから。
 俺は人を見殺しにした。自分の夢を叶えるため。
でも、彼女の悲鳴は上がらなかった。
 かわりにどよめきが上がっていた。彼女の前には仮面の男が立っていて火をつけることを許さなかった。
 あの男が現れたから、狂ってしまったんだ。
 覚悟を決めたのに。我慢すると決めたのに。彼女の死を受け入れると決めたのに。
 決意は崩れ去ってしまった。もしかしたら彼女が生き延びてくれるんじゃないのか。そんな希望が見えてきていた。
 あの男が彼女を助けてくれる、それで終わりだと思っていた。
 だが男はそれで終わらなかった。
 許せるはずがない。一瞬あの男に感謝した自分が、ハイム様を殺したあの男が。
 俺の迷いが原因でこの結果が生まれたのなら、俺はそれを償わなくてはならない。そのためには、あの男と繋がりのあるかもしれない彼女を見つけなくてはいけない。

 ・・・・・・そこで俺の不甲斐なさは折り紙つきだと実証された。

 男の仲間かも知れない彼女を、違っていて欲しいと祈る自分がいたからだ。

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