《MUMEI》 裸絵のモデル準は真剣な表情になると、言った。 「れおんチャン」 「はい」 「れおんチャンにお願いしたいことがあるんだけど」 「はい」れおんは少し緊張した。 「嫌なら嫌だってハッキリ断ってくれたら、それで諦めるから」 まさか愛の告白。 れおんは一気に胸が高鳴った。 「れおんチャン」 「はい」 「僕がこんなこと言ったからって、絶対に嫌わないでほしい」 「あ、それは大丈夫です」れおんの顔が紅潮してきた。 「れおんチャン」 「はい」 「裸絵のモデルになってくれないかな」 「考える時間をください……え?」 れおんは準の顔を見た。 「裸絵のモデル?」 「怒っちゃダメだよ」 「裸って、全裸ですよね?」 「全裸だね」 「無理ですよ、恥ずかしいですよ」 「ごめんごめん。二度と言わないから、気分を害さないで」 しかしれおんは、噴水のほうを見ながら言った。 「でもあたし、前々から裸絵のモデルってどんな感じか、興味あったんですよね」 準の顔が輝く。 「そうなんだ」 「背中だって恥ずかしいし、ましてや前から見られるなんて考えられないですよ」 れおんは勝手に赤面しながら、興味津々の笑顔で喋りまくる。 「モデルの女性って凄いですよね。すましてたって絶対恥ずかしいと思うんですよ。あたしには無理だなあ、たぶん」 「でも興味あるんだ?」 「ありますね。どんな感じなのかなって」 脈ありだ。準は押した。 「興味あるんなら、若いうちに経験してみるのも悪くないと思うけど」 れおんは白い歯を見せると、準に指を差した。 「うまいですね」 「うまくないよ。強制はできないから絶対に」 れおんは落ち着かないそぶりで話した。 「水着じゃダメなんですよね?」 「ダメだね」 「恥ずかしい!」 想像して恥ずかしがるれおんを見て、準は心底欲しいと思った。 この天使のように可憐な人を、独り占めにしたい。だれにも渡したくない。 「れおんチャン。シーツにくるまったり、ポーズによって大切なところを隠すことはできるよ」 「でも準さんには見られちゃうんでしょ」小首をかしげるれおん。 「見ないよ」 「キャハハハ。恥ずかしいよ絶対」 れおんは軽く伸びをすると、笑顔で聞いた。 「仮に、仮にですよ。あたしがOKしたらどこで描きます?」 「ここでもいいよ」 「ここ!」 ベンチを指差して裏声になるれおんを見て、準は明るく笑った。 「大学の教室でもいいよ」 「教室は怖いじゃないですかあ。だれが入って来るかわかんないもん」 「1対1じゃないから大丈夫。れおんチャンは教室の真ん中でポーズ取って、男子学生20人くらいに囲まれてスケッチされちゃうの」 「キャー、キャー!」 れおんは本気で恥ずかしがった。 「かわいい!」 「かわいくないですよ。気失いますよ」 「じゃあ、まだウチのほうが安心か」 「準さんの部屋?」 「れおんチャンの部屋でもいいよ」 れおんは少し考えてから言った。 「やっぱり二人きりは良くないですよね」 ここでトーンダウンしてはいけない。 「実はコンテストがあって、そこに出品しようと思ったんだ。締め切りは二週間後。ここに勝負かけてみようと思ったんだけど」 「準さんなら一杯いそうですけどね。モデルやってくれる子」 「れおんチャン以外のモデルは考えてないから。君に断られたから、はい次って考えはないよ。コンテストも諦める」 「それって凄いプレッシャー」 れおんがふくれたので、準は慌てた。 「君がプレッシャー感じることはないよ。ただ、あの。れおんチャン。嫌らしい気持ちは微塵もないからね」 れおんも慌てて言った。 「もちろん、それは、信用してますよ。準さんそんな人じゃないって」 それでも男の目の前で全裸になるのは危険だ。 れおんは迷った。 「れおんチャン。モデルには指一本触れないよ」 れおんは俯いた。またいけない好奇心が体の奥から湧いて来た。 前へ |次へ |
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