《MUMEI》 指一本触れない準はなおも押す。 「れおんチャン。どうしても恥ずかしかったら途中でやめてもいいよ」 れおんはふざけた。 「そんなこと言って、ドアが閉まった途端に狼に豹変するタイプじゃないでしょうね?」 「違うよ」準は笑った。 「じゃあ、あたしが裸になった瞬間にベッドに押し倒す作戦とか」 「れおんチャン面白いね」 「まじめな話ですよ」れおんは笑顔で口を尖らせた。 準はスケッチブックをしまうと立ち上がる。 「とりあえず、部屋行こうか?」 れおんは真顔になった。 「あたし、まだOKしてませんよ」 「わかってる。わかってるよ」 れおんも一応立ち上がった。 「あ、準さん。失礼かもしれないけど、間違いは絶対起こさないって約束してくれます?」 「当たり前だよ。指一本触れないから」 「準さんは、そういう人じゃないって信用してますけど、よく男の人って、部屋入ったらOKの証とか言うじゃないですか」 準はますます気に入ってしまった。 「オレ、軽い子は好きじゃないから。れおんチャンみたいなタイプは本当に素晴らしいと思うよ」 「まあ、はい」 昼間だし、夜宿泊するわけではない。れおんの理性は、冒険心に敗れた。 「じゃあ、お邪魔します」 「ありがとう」 ここで目が光ってはいけないと思い、準はさりげなくすまし顔。 れおんは緊張しながら付いていった。 アパートに到着。1階の部屋だ。準はドアを開けると、れおんを優しく見つめた。 「どうぞ」 「お邪魔しまーす」 ワンルーム。しかもテレビやDVD。さらに本棚やベッドで、床のスペースが少ない。 (狭い…) 部屋が狭いということは、それだけ二人きりということを意識してしまう。 れおんはまだ裸絵のモデルを承諾していないのに、準は言った。 「れおんチャン、シャワー浴びるでしょ?」 「へ?」 「はいこれ、タオルとバスタオル。一度も使っていないキレイなヤツだから」 「はあ…」 思わず受け取ってしまった。 「バスルームはそこだよ」 「あ、はい」 れおんはバスルームに入った。いくら何でも無謀だろうか。 準が自分に思いがあることは、感じでわかる。気持ちがあるということは、危険ということでもある。 れおんは考えた。 自分はどうなのか。どこかのだれかのように、人を子ども扱いなんかしない。 爽やかで清潔感がある。優しい性格だし、何より夢を持っている。 れおんは準の良いところを一生懸命探しては、自分を納得させようと努力した。 とりあえず服を脱ぎ、シャワーを浴びる。裸にされるかもしれない。彼女は入念に全身を洗った。 れおんは鏡を見ながら呟いた。 「好かれちゃったかな」 21と22。準は学生だし、今すぐ恋人同士にならなくても、最初は友達関係でいいのではないか。そんなことも、れおんは考えていた。 いきなり体を求められたら、それまでの人と思うしかない。 れおんはバスタオルを巻くと、バスルームから出た。 「!」 準は愛しのれおんのバスタオル姿を見て、理性が万里の先まで飛んでしまった。 「れおんチャン」 れおんはボクシングスタイル。 「こう見えてもあたし、空手五段ですからね」 「あっはっはっは!」 「笑い過ぎ」 準は冷蔵庫を開けた。 「緑茶でいい?」 「眠り薬は入れないでね」 「れおんチャン面白過ぎる」 れおんは冷たい緑茶を飲む。バスタオル一枚のままベッドに腰をかけると、さすがに緊張してきた。 「れおんチャン」 「はい」 「最後のお願い。裸絵のモデルになってくれる?」 れおんは空になったグラスをガラステーブルに置くと、おなかに手を当てた。 「そのつもりでシャワーを浴びました」 準は感激した。 「ありがとう。何てお礼を言っていいかわからないよ」 れおんは唇を結んで俯いた。準が近くに来る。 「じゃあ、ベッドに仰向けに寝て」 れおんは仰向けに寝た。胸の鼓動が一気に激しく波打った。 「……」 前へ |次へ |
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