《MUMEI》 小悪魔?準はタオルを手にすると、軽い気持ちで言った。 「れおんチャン、汗拭いてあげようか?」 「え?」 れおんが真顔で迫る。 「どういう意味ですか?」 「ごめんごめん」 れおんは寝ながら準を責める。 「あたし裸なんだよ。汗拭くってどういうこと?」 「れおんチャン、そんなことで怒っちゃダメだよ。何も言えなくなっちゃうよ」 準は困った。挑発しているのか、本気で怒っているのか、判断は難しい。 「準さん、エッチな気持ちで言ったの?」 「違うよ」 「ドキッとするじゃない」 「だから謝ってるじゃん」 れおんはすました顔で言った。 「特別に許してあげる」 「生意気」 「生意気」れおんも真似して言った。 せっかく友好的な雰囲気だったのに、何となく気まずい空気が流れた。 このまま帰してしまったら終わりだと準は焦る。 「れおんチャン。スケッチ再開してもいい?」 「いいよ」 「ポーズ変えるよ」 「嘘」 「ホント」 準はアイマスクを持ってきた。 「これして」 れおんは受け取ると、笑った。 「変なこと企んでないよね」 「疑い過ぎだよ」 れおんがあっさりアイマスクをしたので、準は驚いた。普通は怖がるものだ。 「で、手足はどうするの?」 「縛るよ」 「アハハハ」 まさか受けるとは思わなかった。準は大胆になってきた。 「SMチックなポーズって、普通の写真集でもあるの知ってた?」 「芸術ならいいよ。ヤらしい気持ちじゃないんでしょ」 「当たり前じゃん」 準はれおんの手首を枕もとでクロスして縛ると、さらにベッドにくくりつける。 「何でそこまで本格的に縛るの?」 れおんは笑うと、両手に力を入れた。 「外せない。最後はちゃんとほどいてね」 「生意気言わなきゃなね」 準は混乱した。れおんは天使か、小悪魔か。わからなくなった。 「足は?」 準のほうが気圧された。額に汗が光る。彼はれおんの足首も優しく縛り、全体をながめた。 「アイマスク取ったほうがいいかな」 準はアイマスクを取る。 バスタオル一枚で手足を拘束されているのに、れおんは落ち着いていた。 「準さん、タオルは取っちゃダメだよ」 「もちろん取るよ」 「嘘」 れおんはもがいた。準も負けてはいられない。真顔でバスタオルを掴む。 「ちょっと待って」 待ってと言っているのに、あっさり剥いだ。 「あああ、恥ずかしい!」 準はスケッチを構えると、素早く鉛筆を動かす。 「これは出品しないで」 「するよ」 「ダメ」 「動かないで」 「無理」 「今回は休憩なし」 「S」 れおんが睨む。準は夢の中だ。彼女のすべてが魅惑的だった。 準はスケッチブックを置くと、バスタオルをれおんの体に優しく掛けた。 「れおんチャン」 「はい」 「れおんチャンは、彼氏いるの?」 れおんは少し笑みを浮かべた。 「今はいない。準さんは?」 「いないよ」即答した。 れおんは身の危険を感じ、もがいた。 「ほどいて」 「れおんチャン」 準が迫る。 「ほどくのが先。この状態で迫るのは卑怯だよ」 「卑怯でもいいよ」 かなりまずい。 「話はちゃんと聞きます。だからほどいて、お願いだから」 ピンポーン。 チャイムの音にれおんはドキッとした。 準が立ち上がる。 「だれだよ」 「準さんほどいて」 「大丈夫、部屋には入れないから」 準はれおんを置き去りにして、ドアに向かった。 れおんは神妙にしていた。男友達でもドヤドヤ入って来たら大変だ。 「私。開けて!」 女の声。 「何だよ?」 「何だよじゃない開けて」 修羅場だったら、男友達よりも危険だ。れおんは慌てた。 「ちょっと待ってろ開けるから」 「バカ開けないでよ」 れおんの心配が通じたか、準は戻って来ると、れおんの手足をほどいた。 「ありがとう」 れおんはバスタオルを巻くと、ベッドに腰をかけた。今さら隠れても仕方ない。 準がドアを開けた。 「何?」 「何!」 前へ |次へ |
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