《MUMEI》
回想
彩詩の体を打突したはずの木剣には何の手応えも無い。
「とりあえず合格点かな。」
のほほんとした声と共に後ろから抱きしめられる式夜。慌てて振り返ると顔一杯に笑みを浮かべた彩詩の顔がすぐ側にあった。
「え・・あ・・う・・ああああ彩!?」
耳まで顔を真っ赤に染めながら慌てふためく式夜。
「よしよし、式夜。居合いの一撃は中々いい感じだったよ。それに最後まで油断しなかった所も二重丸。」
ギュ〜〜っと式夜を抱きしめながら頭をナデナデ。言い終えると少し離れる彩詩。
「あや・・じゃなくて・・主人、その・・最後の一撃なんですけど・・ってきゃぁ!!」
彩と言いそうになったのを慌てて正し最後の突きについて質問しようとするが、再び彩詩に抱きつかれてしまう。
「も〜〜〜彩で良いって言ってるのに。でも可愛いから許す。ちなみに最後のはね、光を使って作った虚像だよ。」
ご機嫌に式夜の頭を撫でながら説明をしていく。式夜は顔を真っ赤にしながら困ったように笑う。
「彩・・」
小さく、どこか誇らしげに呟く式夜。その声が聞こえなかったのか、聞き流したのか、彩詩は何も言わずに頭を撫でていた。
(まだまだ勝てそうにない・・か。少しは強くなってるのかな・・・彩の側に居られるくらいに強くなり・・た・・)
ぼんやりと考えながら眠りへと落ちていく式夜。
「式夜?・・・・寝ちゃったの?お〜い・・」
反応が無くなった式夜の顔をしばらく突っついた後ふむ・・と考え、何かを閃いたように笑みを零す。
式夜を抱き上げ修練場の外の芝生に腰を下ろすと膝枕をするように寝かせる。
「いつからだっけ・・私のこと主人なんて呼ぶようになったの・・」
懐かしむように空を見上げる。
治癒術式を展開させ、自分が砕いた肩や傷を治療していく。
魔力を伴わない攻撃による怪我はある程度の技術を持っていれば簡単に治療することができる。
治療を行なうまでは、痛みや怪我による疲労、運動能力の低下は通常と変わらないが・・
しかし、魔力を伴う攻撃による怪我は治すのが困難であり、時間がかかる。
修練場では練習を再開したのか狩月たちの声が聞こえてくる。
ザアァァ・・
風が強く吹く
パサリと何かが彩詩の髪から落ちる。
彩詩の邪魔にならぬ様にとまとめていた髪が広がる。
「本当に・・腕上げたね。」
そう呟き式夜の一撃によってちぎれた髪紐を手に取る。
聞こえるのは遠い喧騒と静かな風の音。
・・・・・

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