《MUMEI》
朱い人影
 日が沈み始め、街全体を赤く染めあげる。打ち上げられる水は青から燃えるような赤へと変わり、それ自体が火を連想させた。
 赤と同化して噴水前に立ち、カイルとエドは会話をしていた。
 彼らは一日を聞き込みにつぎ込み、一日を無駄にしてしまった。聞きこみの結果も虚しく「悪魔のようなやつらしいよ」や「全身を黒で包んでいるだと」など何の手がかりにもならないような仕様もない話ばかりだった。これらはすべて噂であり、具体性に欠けている。彼らが求めているものは事実だった。だがそれも仕方がない、噂は噂を呼び、どれが真実かの見分けはつかなくなっている。そのため彼らは過去の情報に頼ることは諦め、現状で掴んでいる確実な事実を元に男のこれからの動きについて推理を始めていた。
 「三人を助けたのはフェイクでほぼ確定だな。もしそれが本命なら宮廷神官を殺す理由がない、男の動機は恨みか、それとも不満か。
 だが動機が個人的なものだとしたらこれで奴の目的は果たされたことになる、動く理由がなくなる」
 ハイム個人への何かしらの動機ならば、確かにエドの言うとおり仮面の男は動かないことになる。
しかしその考えが上がれば、おのずともう一つの可能性が浮上してくる。
 「犯罪者の件はオレも同意見だが、宮廷神官の件は早急過ぎると思うぞ。
 一個人に対しての犯行ならエドの意見は正しい、男はもう現れないだろう。だが違うものならどうだ。例えば教会全体に対する怒りや、不満なら男は次の犯行に動き出すだろう」
 それはどちらが間違っているともいえず、どちらも正しかった。どちらの可能性もあるため、答えは決まらない。
 「確かにそうだな・・・・・ってかこれじゃあ答えは出ないな。とにかく俺は明日、教会に行っていろいろ調べてみる」
 「ああ、ならオレは念のため逃げ出した犯罪者を捜してみる。仲間という線も捨てきれないからな」
 二人は少しずつだが、着実に仮面の男に近付いていた。

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