《MUMEI》

あの頃の私は、
学校に行く意味なんてあるのか…なんてくだらない疑問をいつも考えていた。
ギリギリで入学出来た進学校で、毎日勉強だらけの日々にうんざり…。

唯一、部活のバスケだけが私の楽しみだった…。

その部活で私は初めて、
彼女にあったんだ…。

第一印象は【こんな小柄な子がバスケなんて出来んの?】だった…。

一年生の中から二人だけ今度の試合にレギュラーで出させてやる。
という顧問の話を聞いて、俄然やる気の私…。

勉強じゃいつもビリ争いの私だけど、バスケだけは誰にも負ける気がしない。
特に勉強ばっかしてるうちの学校でレギュラーを取るなんて容易いことだった。

でも…意外。
私ともう一人選ばれたのは、彼女だった…。

小柄な体格を利用したスピードと正確なシュート…。

私は一気に彼女と
仲良くなった。


クラスが違ってもお弁当は一緒に食べるし、放課後は遅くまでバスケばっかりやっていた…。

彼女といると楽しかった。初めて出来た私の親友。

ある日、
彼女は私に言った。

【付き合いたい】って言ってくれた人がいると…。
どう断ったら良いか教えて欲しいと…。

【その彼が嫌いなの?】と私が聞くと、彼女はニコっと笑って答えた。
【分からない】と…。

その時は、
意味が分からなかった…。

高校3年の夏…。

私はバスケ部
副部長になっていた…。
もちろん部長は彼女…。


別に悔しくはなかった。
彼女が好きだったから…。

引退を目前にした最後の試合も私と彼女の息はぴったり合った…。そして、
当然のように優勝。

二人でファーストフード店に行き祝賀会を開いた。

大学進学が決まっていた私は彼女に聞いた。

【進路は決まった?】

彼女はまたニコっと笑って【まだ】と答えた。

その時初めて彼女の悲しそうな顔を見た…。

次の日から…
彼女は学校に来なかった。

卒業式にも…。

私は必死で担任や顧問に彼女の事を聞いて回った。

だけど…
教えてはもらえなかった。

その3年後、医大に通っていた私は研修先の大学病院で彼女と再会する…。

ベッドに横たわり、酸素マスクと心電図だけがある小さな個室で…。

担当医の先生は言った…。
【彼女の病であれだけ激しい運動を3年間も続ければ進行が早まってもおかしくはなかったのだと…。】

彼女は知っていたのだ。

命が長くないことも…
バスケが
寿命を縮めることも…

彼女は言ったそうだ。

【今を精一杯生きないで長生きしても仕方ない。親不孝だと言われても、今を生きたいんだ】と…。


そんな彼女の病室のテーブルには、あの日優勝したバスケの試合のトロフィーがキラキラと輝いていた。


【完】



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