《MUMEI》 修羅場れおんは緊張した面持ちで二人のやりとりを聞いていた。 「ちょっと入るわよ」 「ダメだ、今お客さん来てるから」 「お客さん?」 彼女は意味ありげな笑みを浮かべると、部屋の中を覗こうとする。 「女の子でしょ」 「モデルだよ」 「連れ込んだんだ?」 「連れ込むとか言うなよ。そんなんじゃないよ」 強く出る彼女に困り果てる準。れおんは服を着ようか迷った。 「モデルなら私も挨拶したいな」 「頼むよ、きょうは帰ってくれ。あとで電話するから」 しかし彼女は準の体を押す。 「モデルか浮気か確かめなきゃ帰れない」 「ちょっと待てよ」 彼女は強引に部屋に突入。 「ああ、ちょっと!」 彼女は部屋に上がり込むと、バスタオル一枚のれおんを見て、嫉妬の炎を目に浮かべた。 「準。よくとっかえひっかえこういうかわいい女の子部屋に連れ込めるね」 「バッ…」 準は目を丸くすると、れおんの顔を見た。 「全部嘘だからね」 「準。裸ってことは、やっちゃったんだ?」 準は怒った。 「やめろよ。失礼だろ!」 「帰ります」 れおんはムッとした顔で立ち上がる。しかし彼女が強く両肩を押してベッドにすわらせた。 「え…」 さすがのれおんも焦る。 「やめろよ」 「やめないよ」 彼女はれおんを睨んだ。 「初めまして。由里子と言います。準の彼女です」 「違うよ」 準が慌てて否定したが、由里子は無視してれおんに迫る。 「ねえ。あなたは、人の彼氏の部屋で裸になって、何してるわけ?」 「違います、違います。あたしは絵のモデルというだけで、何でもありません」 誤解で殴られたらたまらない。準が頼りになりそうもないので、れおんは必死だった。 「すぐ帰りますから」 れおんは立ち上がろうとするが、また強く押されてしまった。華奢なれおんはベッドに倒れ込みそうになる。 「準の前で裸になったの?」 「違います、バスタオルは脱いでいません」 準は急いでスケッチブックを隠した。 「何やってんの?」 由里子はスケッチブックを奪おうとする。 「よせ」 引き合いになると、由里子は準の股間を蹴り上げた。 「あああ!」 「嘘」れおんも蒼白。 準がうずくまっている間に、由里子はスケッチブックを広げた。 「これは何?」 怖い顔でれおんに裸の絵を見せた。準が苦悶の表情で弁解する。 「俺の想像だよ」 由里子はスケッチブックを放り投げると、れおんの脚を蹴った。 「ちょっと、やめてください!」 睨み合い。 「誤解で暴力ふるわれたらたまらない!」 「誤解なの?」 「誤解です」 「でも、彼氏でもない男の部屋入って裸になる普通?」 それを言われると辛い。 「軽率でした。ごめんなさい。彼女がいると知ってたら絶対入りませんでした」 「彼女じゃないから」 「うるさい」 「あっ…」 顔面トーキックが入った。れおんは緊迫の表情。あすではなく1分後はわが身だ。 「したの?」 「そういうくだらない質問には答えられません」 「開き直ると裸のまま廊下出しちゃうよ」 脅しだろうけど、れおんはドキッとした。 「帰らせてください。本当に関係ありませんから」 立とうとすると、また押し倒される。 「乱暴はやめてください!」れおんが睨む。 今度は由里子が目に涙を浮かべながら、無言で肩を押す。れおんは怯んだ。由里子は何度も肩を押してれおんを寝かせた。 「ごめんなさい。あたしが悪かったです。でもこれだけは信じてください。八木内さんはあたしの体には指一本触れてませんから」 「嘘はいいよ」 「嘘じゃありません」 「ホント?」 れおんは慎重に立ち上がった。今度は彼女も止めようとしない。 「待って、君が帰ることないよ」 「私を追い出すの。ぶちキレるよ」 れおんはさっさと服を着ると、振り向きもせずに部屋を出た。 「待ってくれ!」 準は由里子を睨むと、部屋を飛び出した。 「私は悪くないからね」 前へ |次へ |
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