《MUMEI》
恐怖の時間
吾郎は、れおんのパジャマ姿をじっくり見ていた。
今目の前に、好きな女が寝ている。全くの無防備だ。
吾郎はパジャマの下を脱がした。下着をつけていない。
かろうじてパジャマの上が、れおんの大切なところを隠していた。
吾郎は彼女をうつ伏せにすると、パジャマの下で両手首を後ろ手に縛り、また仰向けにした。
吾郎は興奮しながら、パジャマのボタンを上から外していく。
れおんは、急いでパジャマを着たから下着をつけていなかった。
上を脱がされたら全裸だ。今度こそ助からないか。裸にされたら思いを遂げられてしまう。
「ん…」
れおんが目を覚ました。吾郎は慌てて口を押さえる。れおんは抵抗しようとしたが、両手首を縛られていることに気づいた。
「んんん!」
下着をつけていないことを思い出し、生きた心地がしない。
「んんん!」
「騒ぐな。騒いだらやっちゃうよ」
れおんは動きを止めて吾郎を見つめた。
「悲鳴はなしだよ?」
れおんは頷く。
「約束できる?」
「ん」
吾郎はゆっくり手を離す。
れおんは身じろぎすると、甘い声を出した。
「吾郎さん、ほどいて」
「れおん。朝までいさせて」
「もちろんよ。朝までいろいろ話しましょう。だからほどいてください」
「君のその話術にはもう騙されないよ」
れおんは怯んだ。
ボタンを下まで外されているから、れおんも動けない。激しく動けば胸が見えてしまいそうだ。
「吾郎さん、ほどいてください。お願いします」
「君のことは信用できないから」
「じゃあ、何か体に掛けてくれますか」
吾郎はパジャマを両手で掴んだ。
「待って、やめて、やめて!」
れおんは慌てふためく。吾郎は冷徹な目で迫った。
「れおん。裸、見せて」
恐怖で息をするのがやっとだ。
「それだけは許してください」
「じゃあ、さっきのあの態度は何?」
「ごめんなさい」
「ごめんじゃなくてさあ」
「本当にごめんなさい。許して」
愛しのれおんに怯えた表情で見つめられ、必死に哀願されると、さすがに心がくすぐられる。
「吾郎さん、お願いだから許して」
「かわいい!」
吾郎は満面笑顔になった。
「ほどいてほしい?」
「はい」
吾郎が迫る。
「れおん。嫌われたくないから許すんだよ」
「はい」
「じゃあ、うつ伏せになって」
多少見られても仕方ない。れおんはうつ伏せになった。しかし吾郎はお尻が見えないように、タオルを掛けてから、れおんの手首をほどいた。
「ありがとうございます」
れおんはパジャマのボタンを全部はめると、下も履いた。
「吾郎さん、アイスコーヒーでいいですか?」
「え?」
れおんが何ごともなかったように言うので、吾郎はポカンと口を開けた。
「下の自動販売機で買って来ますから」
「深夜にそんなカッコじゃまずいよ」
「じゃあ、吾郎さん、買ってきてくれます?」
れおんが小首をかしげる。吾郎は魅了された。
「れおんチャンは何がいい?」
「あたしはコーラ」
「わかった」
れおんはジャケットを吾郎に着させた。
「似合うかもよ」
「小さいよ」
吾郎が部屋を出た。その瞬間、れおんは素早くドアを閉めて鍵とチェーンをかけた。
「おい!」
やられた。吾郎はドアを叩こうとしたが、やめた。
「れおんチャン」
「……」
「帰るから、怒ってないから、ドア開けて」
れおんは唇を結ぶと、ドアにもたれかかったまま、黙っていた。
「れおんチャン。怒ってないから。帰るから、開けて」
逆恨みは怖い。引っ越すわけにも行かない。アパートを知られている以上、もめないほうがいい。
れおんはチェーンをかけたまま小さくドアを開けた。
「れおんチャン。君のことは諦めたから。避けないで」
れおんは静かに頷いた。
「わかったわ」
吾郎はおとなしく帰ってくれた。しかし、れおんの傷は深かった。
「もう、やだ……」
れおんは玄関にすわり込むと、両手で顔を覆った。

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