《MUMEI》

「どうぞ?お嬢様」


「ぷっ、じゃ、失礼しまーす」


ベンツに乗り込み、シートベルトをつける。


「超安全運転で参ります。どこ行きたい?」


「ははっ、んー、じゃあ適当にドライブで」


「了解です。では、発進っ」







「社長って…」


「たけおみ!」


「はいはい、武臣さんって本当25に見えないですよね」


「え、若く見える??」


「ええ、5歳くらいに見えますよ」


「園児じゃん!若すぎだよ!!」


車内に笑い声が舞う。


社長、吉見武臣さんは、大学卒業と同時に社長に就任したそうで。


もちろんその大学は主席で卒業。


経済学部のエースと言われていたらしい。(本人談)

すごく気さくで、冗談も巧くて、何より気持ちを正直に言ってくれる。


お見合いのときも、いきなりストレートにプロポーズされた。



『僕は、あなたと一緒になれるなら、自分の家すら捨ててもいい。板前なんていつなれるかわからないけど、必ず、あなたに相応しい男になります!』



そんなん言われたら、ふつーの女の子は落ちちゃうよね〜。


まあ、あたしもかなり悩んだけど。


でも、そんなときあたしが考えていたのは…


(『この台詞、カツヤに言って欲しかったな…』)


馬鹿だ、本当。
情けない。早く、忘れなきゃ…――――




「凪沙ちゃん、」


「あ、はい」


「大丈夫?酔った?」


「いえ、大丈夫です。」


「そ。凪沙ちゃんお腹減らない?僕もうペコペコでさー」


「あー、そうですね」


「ガッツリ食べたいなー、ガッツリ」


「ラーメンとかなら、美味しい屋台知ってますよ?」

(あ、でも、ホテルの社長が屋台なん)


「まじ!?行く行く!!どこ!?」


(うそー!!)




安全運転で、って言ったのに、武臣さんはラーメン屋までぶっ飛ばしてた。


そんなに腹減ってたのか?(笑)

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