《MUMEI》
《運命》の出会い
初めて《あいつ》と−−松原 祥子と出会ったのは、今から5年前。
僕が22歳、祥子が21歳のときだった。

二人の馴れ初めは、有りがちな話。

同じ百貨店で働く、メンズアパレル販売員と美容部員の親睦会という名目の、いわゆる合コンで、僕等は出会った。


はっきり言って、そんな合コンは乗り気じゃなかった。

だって、同じ百貨店ということは、毎日、どこかで顔を合わせてしまう可能性が生まれるのだ。

気軽に遊べるわけはない。
どんな噂を立てられるか分かったもんじゃないから。

だから、適当に飲んで、食って、騒いで、楽しんで、「バイバイ」すればいいと思った。

−−祥子に出会うまでは。



その日、僕は遅番だったので、飲み会の開始時間から少し遅れての参加になってしまった。

指定された居酒屋に着くとすぐ、個室に案内された。
通された部屋には、顔見知りの男のメンツ3人と、キレイに化粧を施した女が3人、座っていた。
既に飲み始めていたようで、異様にテンションの高い同僚が、僕の顔を見て「遅ぇーよ!」とはしゃいだ声で言った。僕は適当に受け流し、女達に会釈して空いている席に座ってから、気づく。男がひとり多いことに。
僕は隣の同僚に小声で尋ねた。

「メンツ、足りないじゃん」

すると、それを聞き取ったのか女のうちのひとりが答える。

「ひとり遅番で。もうすぐ来るって連絡あったよ」

安心してね、と付け足した。僕は慌てて「そういうつもりは…」と言葉を濁し、とりあえず置いてあったおしぼりで手を軽く拭う。

簡単に自己紹介を済ませたあと、僕はいつものように冗談を口にしてみんなを笑わせた。男達は豪快に笑い、女達は華やいだ声を上げる。僕も笑っていたけれど、ちっとも楽しくなかった。適当に理由をつけて、早く帰った方がいいかもしれない。

頭をフル稼動させて、言い訳を探しているさなか、個室の扉がゆっくりと開かれた。僕はなんとなくそちらに目をやる。みんな、扉を振り返り、注目した。

そこに、立っていたのは。

華奢なひとだった。
髪を肩まで伸ばし、黒のタートルニットにアイボリーのワークパンツというシンプルな着こなし。化粧もシンプルで、美容部員にしては少し地味なくらいだ。だが、顔立ちはとても整っていて、ひとを惹きつける何かを持っていた。

彼女はみんなの視線が自分に集まっていることに気づき、すこしたじろいだが、女達が口々に「お疲れ様」と声をかけたことにより、安心したようだった。ふんわりと淡く微笑む。

僕はその、キレイな表情に、目が離せなくなった。

彼女は「遅くなってごめんなさい」と一言謝ると僕の向かい側の席に腰掛けた。僕の同僚が「お疲れ!」と明るく声をかけると、彼女は困ったように笑う。彼女の隣の女が気をきかせてメニューを彼女に手渡し、飲み物を選びはじめた。

一生懸命メニューと睨めっこする彼女の姿を、じっと見つめていると、僕の同僚がニヤニヤしながら言った。

「なに?彼女、タイプ?」

からかっているのだ。その声が女達にも聞こえたようで、「やだ〜!」と嬉しそうに声を上げる。

「いきなりがっついて、大胆〜」

男と一緒にふざけだす始末。からかわれた僕はうんざりし、そして、目の前の彼女は困り果てていた。

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