《MUMEI》
過去の記憶(平和
「こら!新米。ボーっとしてると置いてくぞ!」
聞き慣れた声、もう聞くことは出来ないはずの声。
「してませんよ!それと、何度も申し上げていますけど神守彩詩です!新米なんて名前じゃ無いです!!」
(また・・この夢・・か)
幾度となく繰り返し見た夢・・魔物によって奪われてしまった人との記憶。
「彩〜任務中にお得意の現実逃避?それじゃ新米なんて呼ばれて当然だね。」
親しげに過去の自分に話しかけてくる二人。
4年前の団長であるロット・マレスと友人のロア・アーキルス。
(昼の巡回の時の記憶か・・)
リーベルに守護騎士団が置かれたときから騎士は昼と夜に街を巡回している。
「新人との交流及び、基本的な指導のため」そういった理由により、新しく騎士団に入った者たちは数ヶ月は団長と共に巡回をする。本来ならば、巡回は一人で行なう。
(夢なんて見たくないのにな・・・変えられない過去の夢なんて・・)
ぼんやりと思う。それでも夢は続いていく。
失ってしまった者たちと親しげに会話する自分。楽しいはずの記憶でさえも、今はただ、虚しさだけが募る。
「しっかしよ〜何だってこんな時期に枢機卿がわざわざ教会にくるんだか・・」
迷惑だと隠すつもりもなくぼやく。
「この街の守護結界強化のためじゃ無いんですか?」
「何日か後にしてくれよ〜そうすりゃ、俺、遠征行くからメンドクサイ儀式に出なくてすんだのによ〜・・」
団長としてはあるまじき事を言うロット。剣や槍など武芸の腕は一流。部下からの信頼も厚いがこの軽口のせいで教会にはあまり快く思われていない。
「団長・・その儀式に参列したいが為に騎士を目指す人結構居るんですけど・・」
ロアがまた言ってるといった風に笑いながら返す。
実際、彩詩やロアが抱いていた騎士団長といった幻想は入団を許可された日に、打ち砕かれていた。
しかしロットの事を尊敬することもできた。
「お!あの店の中も巡回ルートだったよな?行くぞ〜」
そう言うと二人が止める間もなく飯屋へと入っていく。
「まぁ・・お昼だしね・・」
ロアが苦笑しながら彩詩のほうを見る。
「私も行かなきゃ・・ダメ?」
またか・・と頭を抱えながらも楽しげな彩詩。
「巡回のルートに入ってるらしいよ?だから任務だって。」
「絶対嘘だ・・」
ぼそりと呟く。いつものように・・
「と言うより・・彩は軽いんだから食べなきゃダメ〜!そのくせ・・私より胸があるってどういう事よ!!」
「てい」っと彩詩の腕を強引に引っぱって行くロア。
「ロアの方が私より背が高いからじゃないか!!って痛い!!爪食い込んでるよ!!ほら!!」
ロアはご機嫌に鼻歌を歌いながら彩詩を引っぱって行く。
「遅いぞ〜お前ら!こっちまで早く来ないとお前らのおごりで飯食うぞ。」
「団長それ酷い!!」
「鬼団長〜〜」
軽口を叩きながら店へ急ぐ二人。
(昼の巡回のたびに昼ご飯おごってくれたっけ・・)
懐かしい・・そう思う。
視界が暗くなる。

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