《MUMEI》

「これ、乗ってみたいです」
その先にあったのは観覧車
田畑は頷いてやるとそこへと歩く事を始める
手は、つないだまま
田畑の大きな手がファファのソレを温かく包む
その温もりに安堵しながら辿り着いた観覧車の前
「大きいです……」
初めて見るその大きさにファファは驚きの声を上げていた
「びっくりしたか?」
普段から大きな眼を更に見開いて見上げるファファに
柔らかな笑みを含んだ田畑の声が向けられる
その声に何度も頷きが返ってきた
差の様に田畑は軽く肩を揺らすとファファの手を取り観覧車のゴンドラの中へ
ゆっくりと高さが増していく
「すごいです。どんどん高くなっていきます!」
「ファファ、高いトコ平気か?」
楽しげにはしゃぐファファへ今更な問い掛け
だがはしゃいでいるところを見るとどうやら平気の様だった
「正博君、正博君!見て下さい、外がオレンジ色です!」
外を眺めていたファファが突然にゴンドラの窓へと手をあてた
田畑もそちらへと視線を巡らせると丁度夕焼けが
町全体が夕日に染まって
久方ぶりに見たその色は綺麗だと素直に感じ
細く笑みを浮かべるとファファの頭へと手を置いた
「そか。ファファは夕焼け、あんまり見た事無かったんだな」
「はい。とってもきれいです〜」
向けてくる笑い顔は本当に喜んでくれている証拠で
ソレが田畑には何よりも嬉しかった
「まだ沢山色んなもの見ような、ファファ」
若干手荒く頭を撫でまわし、だがその田畑の表情は限りなく柔らかい
ファファもまた可愛らしい笑みを浮かべて返していた
「どうぞ、脚元にお気をつけて降りて下さい」
観覧車が一周し、ゴンドラの戸が開かれる
田畑の手を借りそれから降りたファファに、従業員らしき人物から小袋が付けられた風船が手渡された
いきなりなソレにファファは小首を傾げながら
「これ、何ですか?」
その小袋をまじまじ眺めながら問う事をする聞いたところそれは花の苗らしく
開演十周年の記念品との事だった
「ありがとうございます」
渡すモノを渡し終え去っていく背に深々と頭をファファは下げ
そして、顔をあげると嬉しそうに小袋を眺めた
「帰ったら、植えてみるか、それ」
田畑の言葉に、ファファは満面の笑みを浮かべ
さも嬉しそうに頷いて見せた
その後も様々アトラクションを満喫し
その内に閉園を告げる放送が流れ始め
時計を見やるとその場を後にしていた
「今日、楽しかったか?」
家へ向かう途中の車内
赤信号で都合よく止まった田畑がファファの方を向きながら問うてみる
ファファも同じ様に田畑の方を向くと、大きく頷いていた
「とっても楽しかったです。正博君、今日はありがとです〜」
余程楽しく、余程嬉しかったのか何度も礼を言っては頭を下げてきた
その仕草が田畑には堪らなく可愛くて
笑みが自然に口元に浮かんでしまう
「俺も。今日は久々に楽しかった。付き合ってくれてありがとな」
「正博君……」
笑う田畑に、ファファは顔が赤く火照っていくのを止められない
見る間に、赤くなっていく
「ファファ?どうした?顔、赤いぞ」
横眼でその事に気付いた田畑が、ファファの頬へと手を伸ばす
子供故の高い体温のファファとは違い、田畑の手は僅かに冷たく
ソレが火照ったそこに心地が良かった
「何でも、ないです……」
そう返すのがやっとで
そのファファの様子に、田畑が首をかしげて見せる
だが深く追求する事はせずに
「そか。なら、あともう一カ所、俺に付き合ってくれる?」
人差し指を立てて見せながら田畑は片眼を閉じて見せる
何所へ行くのか、とつい問うてしまうファファだ
「昨日、一緒に飯作ろうって約束しただろ。だから、材料買いに行こうと思うんだけど」
嫌?との田畑の誘い
ファファが否を唱える筈もなく
二人は近所のスーパーへ
店内へ入って一歩
ファファが驚く声をあげた
辺りを頻りに見回すばかりのファファへ
何を食べたいのかを田畑は問う
「食べたいもの、ですか?えっと……」
真剣な顔で暫く悩み
そして
「ファファ、(お鍋)って言うモノを食べてみたいです」
意外な返答が
刺して特別感など無いソレに

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