《MUMEI》 毒を持って毒を制すれおんは怒りをあらわにした。 「許せません。絶対に許せない!」 博美は俯き加減。 賢吾は落ち着いた口調で、穏やかに話し始めた。 「その男はド素人ですね」 「素人?」 「脅しのプロなら法律ギリギリの線で攻めて引っかからないものです。しかし今回のは完璧に脅迫ですよ」 「はあ…」 賢吾は引き出しから名刺を出し、博美に渡した。 「敏腕弁護士を紹介しましょう。強豪大兵。強そうな名前でしょう」 「きょうごう、たいへい…」 「わてらの間では悪徳弁護士言われてます」 「悪徳弁護士?」博美は少し心配した。 「時代は乱世です。今までの人類の歴史は、強くてうるさい悪人が、おとなしい善人を黙らせてきた」 博美とれおんは、真剣に聞き入った。 「だからいつまで立っても世の中良くならん。これを転換するには、悪党以上に強くてうるさい善人がたくさん増えて、悪人を黙らせることや」 強豪大兵。 賢吾ファミリーの最終兵器。 車中。強豪弁護士は、男たちに語ってきかせた。 「目には目を。歯には牙をだ。俺が庶民と呼ぶのは善良な市民だけだ。自己中は数に入れない」 ビルに到着。 強豪大兵は、先頭切ってビルに入っていく。 黒のスーツを着た大男が3人、あとに続いた。皆黒のサングラスをしている。 強豪だけワインカラーのサングラスだ。 ドアに蹴り。開いた。中にいた若い男3人が驚く。 パンチパーマに高価なスーツ。ピカピカに磨いた靴。これで凄めば一般市民は本物のヤクザだと思ってしまう。 しかし実際にはチンピラどころか、ただの20代の若者であることは、すでに調査済みだ。 強豪は男たちを殺意の目で睨みつけると、デスクをひっくり返した。 「テメーらどこの組のもんだ。返答によってはこの場で命落とすぞこらあ!」 凄い声量が部屋中に響いた。 偽物が恐れることは、本物が現れることだ。 こちらも偽物とは知らず、男たちは震え上がった。 本物の暴力団が高利貸しをしている場合もあるが、偽ヤクザもんが闇金をやっているケースもある。 強豪大兵は、前を見ながら話した。 「プロフェッサー」 「へい」 プロレスラーのような大男が、いきなり日本刀を抜いた。男どもは蒼白になった。 強豪が迫る。 「テメーら、ヤクザもんの真似ごとすんならなあ。最後まで貫き通してみろ!」 「すいません、すいません」 土下座。しかし強豪は言った。 「貴様、人が土下座したってそっから追い込みかけるだろ!」 「そんなことしません」 「ダメだ。指なんてケチは言わん。腕一本もらっていくぞ」 プロフェッサーが日本刀を持って近づく。男どもは泣きながら懇願した。 「許してください」 強豪は上から言葉を叩きつける。 「よし。じゃあ一週間やる。この街から出ていけ。見かけたら街中でもやるぞ」 強豪大兵は撮影所へ戻った。ヤクザもんを演じた大男たちは、小道具の刀を持って中に入っていった。 強豪大兵は呼び出しを食らう。 面接のように3対1で向かい合う。 「エキストラを使うなんて行き過ぎだよ君」 「じゃあ本物使って黒い関係を結んだほうがいいのか?」 「君、失礼だよ。偉い人が多忙の中来ていただいているのに」 「お偉いさんだけが多忙なわけじゃない」 吐き捨てると、強豪大兵は席を立った。 「餓死に自殺に窃盗。これらが急増しているのに、心を痛めない関係者がいる。俺は命張ってんだバカヤロー!」 「ばっ…」 口をあんぐりするお偉方に背を向けると、強豪大兵は部屋のドアを開けた。 「この国は、人が死に過ぎる」 一言置くと、部屋を出た。 賢吾ファミリーの切り札。強豪大兵。 好きな言葉は「毒を持って毒を制す」。尊敬する人物は、曹操。 トントン。 博美は、勢いよくドアを開けると、毅然とした態度で石川を睨んだ。 「どうぞ」 石川は焦った。この強気の姿勢は、金を用意してしまったのか。 石川は、額に汗を滲ませた。 前へ |次へ |
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