《MUMEI》
待ち伏せ
 アランは大小様々な露店が密集する大市場を注意しながら歩いていた。波に逆らわず流されていき、その流れの中で観察を続けている。
 どうして市場を歩きまわっているのかと言うと、幼少の友クレアかもしくはあの二人のどちらかがこの市場を訪れる可能性が高かったからだった。この市場は王都でも一番と言っていいほどの大きさを誇り、街の住人の八割以上がここの食材で生計を立てている。と言うことはこの王都を脱出できない彼女たちは食料を求めてやってくるという寸法だ。
 遠く離れた場所からでもここを利用する者がいるのには、この市場が最も多くの種類、豊富な量を揃えているからだった。検問が厳重になっているいま、彼女らがバカでない限り王都から出ようとは考えないであろうと予測しての行動だった。王都を出ないとなれば彼女らは宿をとって隠れるほか手段はなく、王都内で経営されている数十という宿の中から一つの宿を探すより一つの市場で待つほうが効率が良いと思いアランは市場を歩いていた。
 「・・・・・」
 行動を開始してかれこれ三時間。彼は行き交う人たちの顔を見て過ごしているが、どれも昨日見た三人とは一致せず困り果てる。

 更に五時間。感覚が麻痺しだし、どれだけの時間が経ったかわからなくなる。

 市場を何十往復したろうか。流れに混じり反対に行く人の顔を一人一人確かめる作業が続きさすがにアランの顔にも疲れが見え始めた。
 疲れを吹き飛ばすため大きく深呼吸をして顔をあげたその先、ある男と目が合った。
 距離にして十メートル弱。見間違えることのない顔、逃した三人のうちの一人。
 予想外のことに相手の顔が固まり、立ち止まる。
 束の間の静止。唖然とする二人。
それもほんの一瞬のことで逃走者ファースは体を翻し流れとは逆に走り出した。

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