《MUMEI》

廊下の突き当たりのドアを乱暴に開けると織田は停まっている車に向けて手当たり次第にロック解除のボタンを押していく。
駐車場は思ったより広く、車の数も多かった。
四回ほど押した頃、ようやく一台の車のライトが電子音を鳴らしながら光った。
「よし、乗れ」
言うが早いか、織田は運転席のドアを開けて乗り込む。
ユウゴも助手席に乗り込むと、まだドアも閉まっていないうちに車は進み始めた。
一気にアクセルを踏み込んだのか、タイヤのスリップ音が駐車場内に響き渡る。
ユウゴはなんとかドアを閉めて前方に視線を向ける。
すると駐車場の出入口に人影が見えた。
一瞬敵かと体に力が入ったが、近づくにつれて違うことがわかった。
人影はこちらに向かって大きく手を振っている。
織田は人影に近づく一瞬、スピードを緩めた。
そのタイミングを逃さず、後部座席のドアが開いてその人物は飛び乗ってきた。
「おまえ、無事だったのか」
後ろを振り返りながらユウゴは言った。
後部座席には飛び乗った体勢のまま横になっているケンイチの姿がある。
「ったりまえだ。あれぐらいでやられるか。意外と合図も早かったしな」
言って彼は体を起こした。
どうやら階段で織田が吹いた指笛はケンイチに向けての合図だったようだ。

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