《MUMEI》
再会
メアド交換した。
試しに送信した。
ちゃんと送信できた。
返信が来た。
また送信した。
…−何度も繰り返した。
▽
再会して抱き合った日からちょうど一週間目。
メールだけの直接の会話のない付き合い。だけどメールでだって待ち合わせの約束は出来る。
▽
約束の時間はとうに過ぎている。
ここを待ち合わせに使う者は意外と多く互いに出会っては雑踏の中に消えていく。
何度も携帯を開いては時間を確認したり、メールを打とうか迷ったり。
あまりにも暇で高杉から来たメールを始めから読みかえしてみる。
……、おはようとか、今から寝るとか、どうでもいい内容ばかり。
送信を開く。
俺からは、
何の仕事してんの?
暇だよ
今日は寒い
今度の休みはいつ?
会える?
−−全部、全部、
俺しか知りたがってない。
俺が一方的に会いたがってただけ。
第一お互いメアドしか知らない。
携帯番号どころか住んでいる場所さえ知らない。
何度も聞こうとしたけど…、向こうが聞かないから何となく聞けなかった。
見えない壁が厚すぎて、この一週間、
…すごく、すごく、息苦しかった。
−−−…もう、2時間も過ぎた。
ちょっと暗くなりかけていた約束の時間から今は真っ暗な夜空。
−−いや、あのうろ覚えな夜の夜空みたいに星が出ている。
俺は瞼をゆっくりと閉じ、
一回深呼吸して、
携帯をリュックに手探りでしまい込んだ。
「ごめん!水城!!」
「…え?」
息を切らして駆け寄ってくる、一人の男。
男は俺の前で立ち止まると、粗い呼吸を整えながら、
何度も何度も
ごめんって繰り返した。
「…帰るとこだった…」
「よ、よかった…、まだ居てくれて…はあ、よかった…」
あんまりにも苦しそうだったから思わず背中を摩ったら、
高杉は照れ臭そうにしながら、嬉しそうに俺を見つめた。
「もう寒いって」
そう言いながら俺もつられて笑ってしまった。
二時間外にいた不安と苦労は高杉の笑顔で一瞬で消え去った。
−−…ずるい。
簡単に俺に許される高杉がずるい。
▽
当たり前の様にホテルに連れられ、抱きしめられて、冷えた体を暖められた。
「けじめつけなきゃ高杉に会えなかったから…、俺、女と別れてきたんだ」
「彼女、居たんだ…」
「彼女傷つけた分も水城を幸せにする」
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫