《MUMEI》
下卑た輩
 朝は晴天だったが、昼に差し掛かった現在は王都の上をちぎれ雲の群れが通っていた。陽を隠しては現し、それを繰り返している。
 何度目かの陽が顔を出しているときカイルは街を私服で歩いていた。私服ということで当然腰に剣を提げてはおらず、誰がどう見ようと彼はただの青年だった。しかし、身を包むものが変わろうとその人の本質が変わるわけではない。彼の歩く姿はいろいろな意味で平凡とは違っていた。
 今日カイルが私服で歩いているのには理由があった。やはり軍服での人捜しは人目につき警戒されてしまう。捜し人が逃亡者ならなおさらだ。
 人の多い賑やかな街の中心部を回ったが、特にそれらしい人物はいなかった。いくら平静を装うと逃亡者の瞳には後ろめたさや、恐れが見え隠れしているもの。カイルのそういったものを見抜く力は凄まじく、ある程度の人間なら瞳を見ればわかってしまう。しかし目が合うもの、横を通って行くものは皆そういった感情を隠してはおらず馬鹿がつくほど能天気だった。
 目的がいないことを確認すると街の中心部から離れていく。中心部を出ると人の数はまばらになり、自然と歩きやすくなる。
 「・・・・・・・・・・・・・」
 カイルは歩幅を広くして歩いていると、つい足を止めてしまった。微かだが女性の叫ぶ声が聞こえたからだ。声の聞こえたほう、右に向くとそこには建物と建物の間に狭い通り道がある。さきは薄暗く、どこまでも陰湿な空気が漂ってくる。カイルの立っているこことは全く異なる雰囲気に、何かを感じ取り足を踏み入れていった。
 言ってしまえば王都の影の部分だった。光のあたる部分が豊かで賑わい、輝いている分、影の部分もそれに比例している。

 ―――敗者―――

 そのなかでも立ち上がることのできない精神的に弱い者たちの溜まり場だった。
 酷く汚れたそこで男たちは一人の女に群がっていた。女は泣きむせり暴れるが、手を縛られ自由の利かない彼女の抵抗は虚しく男たちのなすがままだった。
 へどが出る光景にカイルは顔をしかめ近づいていく。
 行為に耽っていた男たちがカイルに気づき、一人が下卑た笑いを浮かべる。
 「なんだ兄さん、俺たちの仲間に入りてえのか」
 「それだったら待っててくれよ、今は俺たちの番なんだからな」
 見当違いなことを言っている男たちを見下した瞳で見た。女を無視して腰を激しく打ち付け先走る男に、順番を待ち切れず自慰に没頭する男。
 そんな男たちを見ていると虫唾が走る。
 「・・・・」
 周りを囲む一人の男を殴り、卒倒させる。汗を散らせていた男が驚き、行為を中止した。他の男たちもカイルを睨み見る。
 「何のつもりだ、待ってられねえってのか、おい」
 「順番ぐらい守れってんだ、このクソが」
 最低の人間は考えることも最低だった。侮蔑の眼差しをその身に受け、仲間を気絶させられまだカイルを自分たちと同じ性的欲求に飢えた男だと勘違いしている。
 「・・・・・」
 ここまで馬鹿だと言おうと思っていた言葉も出なくなる。無言のまま、カイルはごみを駆除していった。

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