《MUMEI》

―――――――――

う、うーん…ここは…どこだ?

ぼやけた目を擦りながら、起きたばかりの重たい瞼を無理矢理開く。すると、そこに広がる景色は、例の真っ暗な場所ではなく…

「ここ…教室だ」

そう、今まで自分がいたはずの教室だったのだ。でも、1つおかしいところがある。

「誰も…いない?」

どうやら、その点だけは変わらないようである。まだ自分が知っている景色なだけ幾分楽ではあるが、それでも1人きりというのは、寂しがり屋の陸には辛いものがあった。




「なんで…ボクここにいるんだろう。誰かいないのかな?」

そう思った陸は、とりあえず誰かいないか探しに、廊下に出てみることにした。

「やっぱり…ここ学校だ。海はまた真っ暗なとこにいたって言ってたのになぁ…?」




しばらく廊下を歩いてはみたが、やはり陸が通っている岡根第一高校に間違いはない様子だった。

しかし、明るいとはいえ誰もいない学校というのは気味が悪いものである。陸は歩きながら、突然他の教室のドアから何か飛び出してくるんじゃないかと、ドキドキしながらひたすらに廊下を歩いた。

「やっぱり誰もいない…。」

適当に探し周っては見たが、やはりこの学校には誰もいない。車の音などもしないところを見ると、この世界自体に陸以外誰もいないようだった。

「…あうぅ…」

自分以外誰もいないことを理解してしまった陸は、急に激しい孤独感に襲われた。




「っ…!!」

ものすごい寂しさに、もう“力”を知るという目的さえも忘れるほどに我を失った陸は、その大きな瞳に大粒の涙を携えて、行くあてもなく突然走り出した。

―――――――――

「はぁ…はぁ…あうぅ…」

全速力で校舎を走り抜け、外に出ても尚スピードを緩めることもなく、とにかくずっと走りつづけた陸が辿り着いた場所…

我慢できず溢れ出た涙を制服の袖で拭い、走ったことによる汗を、思い出したようにズボンのポケットから取り出したハンカチで拭きながら顔を上げた陸の目に飛び込んで来たものは…

「ここは…そっか、寂しかったからボク、ここに空くんと海がいると思って…」





そこには…いつも3人が昼食を食べに来る、中庭の一本の木が佇んでいた。

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