《MUMEI》

「なんでだろ…。空くんも海も、この世界には誰もいないってさっきわかったはずなのに…。」

改めて現実を叩きつけられたような気がして、陸は多少こぼしつつも我慢しつづけた涙をついに流しつつ、その場にへたりこみ、ついに大声をあげて泣き出した。




…その様子を、例の木は、悲しい目で見つめるようにポツンと佇んでいたのだった。









『………げよ………ね…』




…ん?今何か聞こえたような…?

気のせいかもしれないが、これに一留の望みをかけた陸は、自然と泣き止み、次は聞き漏らすまいと声を静め、聞くことに集中し始めた。




『………顔を上げよ、少年。』




…!!…間違いない!!今聞こえたのは…




『…顔を上げよ、少年。』




…あの声だ!!どこだ、どこから聞こえてくる!?




ついに声を聞いた陸は、今まで何事もなかったかのように勢いよく立ち上がり、「どこ…?」と呟きながら一心不乱に自分の周りをキョロキョロと探し始めた。




『…少年よ、こちらへ来るのです…』




…聞こえた!!間違いない…あの木から聞こえる!!

陸は走り始めた。ついに探していたものが見つかった…その喜びに、「また泣いてしまった」というほんの少しの羞恥心を織り混ぜたような表情をしながら、目的地の木に向かって駆け出した。
―――――――――

当然だか、例の木まではすぐにたどり着いた。ほんの少しだけ息を荒げながら、陸は次に声が聞こえてくるのをじっと待った。




『少年よ…』




…ん?上…?

見上げると、今度は下から声が聞こえて来た。




『名は…なんという?』




顔を下に下げてみるとそこには、藍色の着物を着た、陸と同じくらいの年齢であろう少女が木の根本に座り、何かを見つめるともなく真っ直ぐ前を見据えていた。

「あ、えっと…加東陸です。」

『陸…というのか。』

「えっと…あなたは誰?」

『私か…?私は、陸が探していた声の主だ。…どうしてもそなたに…陸に、礼を言いたかった。』

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