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《MUMEI》 風船夏 風 海 蝉しぐれ… 海が凪いている ゆっくりと流れる雲 たまたま見つけた 癒しの場所 自分だけの絶景 これだけ広い空間に 何も無いという贅沢 ただゆっくり 時の流れを味わう 何もしない満足感 悠久のひととき 暑い夏だった。 悪い癖で、 テーブルに、 つきっぱなしの ヒジが痛い。 その街に住んでいる 彼女に会っていた。 その店の冷房は、ガタガタ音をたて、それでもなんとか冷気を吐き出していた。 天井に掛かった 安っぽいシャンデリアがその風で、チラチラ揺れていた。 「ここは、どう?」と訊かれ、 初めは彼女の質問の意味が解らなかったが、 この街の事だと思い、昨日来たばかりなのに、好きだと答えた。 僕らは 遠距離恋愛だった。 いつもは彼女が僕の街に、もしくは全然別の街で待ち合わせしていたから、 僕がこの街を訪れるのは、初めてだった。 まだ、たった一日しかその街を歩いていなかったけれど・・・ 好きだなぁと思ったのは本当だった。 そういうことって、 ごく稀にある。 よく知らない 場所や人。 僕にとっての この街と、彼女。 理由を説明しろと言われると、言葉に詰まるのだが・・・ 何かがピッタリきた、と言うしかない。 一目惚れというのも なんだか 照れくさいが。。。 不思議な感覚。 「何ちゅうか・・・何もない贅沢、何もしない満足って感じ?」 「うん。でもそういうのって・・・なんか、イイよね!」 もうどれくらいこの店にいるのか。 話している時間より、話していない時間のほうが長かった。 彼女は 店の外を眺める。 Yシャツが 汗だくの青年 日焼けした足の 女子高生 ボロボロの デニムの男性 半ズボンで 走り回る子供 そして僕は、 そんな彼女の横顔を 見てる。 「・・・うん?」 にこにこと笑う顔を みると、何故だか 僕は、目を伏せて しまう。 「あのね・・・」 午後5時20分 という、ものすごく 中途半端な時間。 カフェの客は 途絶えて、 店員も暇そうに している。 彼女は突然、 話し始める。 「あのね、あれ 風船の歌って 知ってる?」 「ん?えっ? 何それ、知らない。」 「あのさ、二人の間に風船があってさ、 それを 割れないように・・・飛んでかないように って、歌!」 僕は、目の前の彼女との間に、風船を想い描いた。 確か、聴いた事はあるはずだったが、もう歌詞は思い出せないし、 音程もふわふわ している。少し難しいメロディーだったか? 夕方の街は、 まだ暑くて 埃っぽくて やっぱり暑い。 街全体が 濃いオレンジ色の様にユラユラ。 彼女は氷の溶けた カフェラテを、 ストローでぐるぐる かき回し続けている。 そのあとも僕らは、 何気ない話をボツボツ話した。 彼女が、駅まで一緒に歩いてくれた。 ぴらぴらと小さな手を振る。 「じゃあ!」 「・・・ん!」 帰りの電車の中で、彼女と一生ここで暮らせたらいいなぁ・・・と本気で思った。 そして、 あの風船の歌。 二人の風船は、 割れることもなく、 飛んでいくことも なかったのか? そのあとの物語。。。 知りたいと思うときもあるけれど・・・ やっぱり知らないで いいと思う。 たとえ何もなくても、何もしなくても、現実はリアルに続いていくのだから。。。 それから 暫くしてからだった。 彼女の訃報を知った。 事故で即死だった。 生きるとは何か? 私に誰も問わなければ 私はその答えを 知っている。 しかし、 誰かに問われ 説明しようとすると 私は 生きるとは何かを 知らない。 |
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