《MUMEI》 果てしなき夢引っ越し祝いに、さすらいの隠れギャンブラー、仲矢真次が花束を持ってきた。 「おめでとうございます」 れおんは笑顔で受け取った。 「ありがとうございます」 「かわいい。もう、大ファンだから」 「そんなそんな」 賢吾は余裕の笑みでソファにすわっている。 「仲矢さん。お嬢の笑顔を見れるなら、花束は安いもんやろ?」 「100万ドル払ったって惜しくないですよ」 「何言ってるんですか」 照れるれおん。彼女は花束を大事そうに持って、キッチンのほうに置いた。 「仲矢さんの好きな季節の到来やな」 「好きな季節?」 「薄着の季節や」 「れおんチャンの前で何を言わせたいの、ねえ」 そこへ、石坂博美がやって来た。 「こんにちは」 「あ、こんにちは!」れおんが熱烈歓迎する。 「院長。チケット持って来ましたよ」 博美がニコニコしている。れおんはそれが嬉しかった。 賢吾が紹介する。 「仲矢さん。この人は女優の石坂博美さんや」 「女優?」 「綺麗な人やろ?」 「何を言ってるんですか院長」博美は照れた。 「私は女優よ」仲矢がふざける。 「この人は隠れ馬券師の仲矢さんや」 「差せ、差せって、やってませんよ競馬なんか」 「アハハ。面白い人ですね。スカウトしようかな」 博美が笑うと、仲矢はすかさず言った。 「スカウトするなられおんチャンでしょう。彼女なら一人で東京ドームを満員にしますよ」 「よく言いますよ、仲矢さん」 「でも、れおんチャンに舞台立たれると、私が霞んじゃうといけないから」 「あ、博美さんまで。何か出さなきゃダメですね」 れおんはキッチンに立った。 「皆さんアイスウーロン茶でいいですか?」 「あ、お構いなく」 「博美さんもゆっくりしてってください」 「僕は?」 「もちろん。仲矢さんもゆっくりしてってください」 「ヤらしい中年や」 「院長はいいでしょう。こんな素敵な子とずっと二人きりで。このう。世界一の幸せものう!」 仲矢がいちいち賢吾の膝を叩く。 「痛いわ」 「お待たせ」 れおんがドリンクを運んできた。 「ありがとう」 「どーも」 賢吾が劇のチケットを見る。 「そうや。仲矢さんも劇見に来んか?」 「劇ねえ」 「あ、日曜やから無理か」 「日曜日、何か用事あるんですか?」博美が仲矢に聞く。 「3時40分ゆうたら、この人レース中や」 「レース…ハーリーレイス」 「わざとらしいわ」 「世界でいちばん強い男。美獣。ハンサム・ハーリーレイス」 れおんと博美は顔を見合わせると、声を揃えた。 「知りませーん」 仲矢真次が博美に聞く。 「劇団って、若い子いる?」 「いますよ。私も若いし」 博美が笑う。賢吾がすかさず急所を突いた。 「そうや仲矢さん。劇終わった帰り、お嬢と3人で飲みに行こうか?」 「行きます」 「今渋ってたやないか」 「行かせてください」 「ホンマ現金な人やなあ、現金ないくせに」 「あれ、今の、今のどうかな、今のどうかな?」 引きつった笑顔で仲矢が迫る。博美は笑い転げているが、れおんは口を尖らせた。 「院長。今のは失礼ですよ」 「れおんはどっちの味方や?」 「そういう問題じゃなくて」 れおんの加勢を受けて、仲矢が調子に乗る。 「笑いながら怒る人。テメー、このヤロー、バカヤロー!」 「キャハハハハハ!」 「笑い過ぎですよ博美さん」とれおんもつられて笑う。 「ええな、悩みのない人は」 「悩みありますよ。今度相談に乗ってくださいよ」 「お嬢に会いたいだけやろ?」 「バレた? バレた?」 賑やかな診察室。 「わいの夢は、困ったときはお互い様のドンマイ精神が全国に広がることや。市民に威張りくさるような公務員なんか、正直いらんやろ。庶民を見下す輩はタイガードライバー91や」 「よっ、野蛮人!」 「だれが野蛮人や。」 「アハハハ」 夢のクリニックに、れおんの笑顔が弾けた。 END 前へ |
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