《MUMEI》 ・・・・建築途中の積み上げられた石の隣で男たちは差し出されたシチューを啜り、男たちの野太い声が上がりメリルに男たちの視線が向かう。 「メリルちゃん!俺と結婚してくれ、必ず幸せにして見せるからっねっねっ!」 手を握り締めぶんぶんと振るい言い寄ってくる筋骨隆々の作業員。一人、また一人とメリルの周囲に集まりだし、やがてメリルを包み込んでしまった。その誰もがメリルと大きく年の離れた大人の男たちで、酸っぱい匂いを体中から放っているときた、メリルも喜べるはずもなく。 「っは、はぁ。あの・・・」 言葉を濁し、言い淀む。どう答えればいいのか悩んでいた。求婚されるのは初めてのことで非常に嬉しいのだが、だからと言ってそれを受けることも出来ない。 「ご、ごめんなさい。気持ちはすごく嬉しいんですが・・・」 精一杯に気持ちを伝えようとするが、うまく言葉にならず口ごもってしまう。俯いてしまうメリルを見て、誰かが口を開いた。 「あーあぁ、ふられちまったな、これで何度目だ」 つづき、周りも笑いだす。 「こんな綺麗な娘がおまえみたいな奴の嫁さんになってくれるわけないじゃねえか」 酷いことを言っているのだが、明るい雰囲気のなかではそうは聞こえない。当の本人も笑い飛ばしている。頭を掻き一本取られたという風。 「こら参ったな。メリルちゃんみたいな娘が妻だったら毎日が楽しく愉快なもんになるんだがな、こればっかりは仕方ねえか」 がっはっはっは。唾を散らし大笑い、大して本気ではなかったようで真剣に回答をしたメリルは恥ずかしさから顔を真っ赤にした。それを見てまた歓声が上がる。 「初々しいね、こんな娘と結婚できる幸せ者の顔をぶん殴ってやりてえぜ」 笑いながらとんでもない発言をする男たち。男たちは笑っているが、本当に殴りかかってきそうなので笑えたものじゃない。 「見たいなことがあったのよ、恥ずかしくて逃げ出したかったわ」 困り顔でため息をつくメリルに、コップに入っている水を一口飲みクレアは感嘆の声を上げる。 「メリルちゃん綺麗だから、男の人たちが結婚を求めてくるのも当然だね」 無邪気な笑顔でそう言う。冗談だと分かっていないクレアに、メリルはどう言ったら理解してもらえるものか考え、 「わかってないわね、クレア。その人は冗談で言ってきたのよ、私の赤くなった顔見て笑ってたんだから」 それを聞き、ファースが肉を頬張りながら口をはさんでくる。行儀の悪さはこの際放っておこう。フォークを立て、 「そうか、冗談かどうかなんて本人しかわかんねえんだ、もしかしたら本気だったけど断られたからわざと明るく振る舞ってたのかも知んねえぞ。 おまえも結構鈍いんだな」 「鈍くなんてないわよ、ただ私は慎重に見定める必要があるから断ったのよ。結婚は人生でも最大のイベントなんだから慎重すぎるくらいで丁度いいのよ」 もっともらしいことを言ってはいるものの、嘘であることは確かだった。売り言葉に買い言葉と言ったところで、ただ思いついたことを口にしただけ。しかし、ファースはメリルの理論を聞くと納得したのか、それ以上何かを言うことはなかった。 前へ |次へ |
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