《MUMEI》
馴染みはじめた特異な力
 廊下を歩き、宿の玄関へと向かう。少し赤らんだ笑顔を見せられ、こちらまで熱が移ったかのように赤くなっていた。
 「おや、どうしたんだいこんな時間に?」
 夜の闇に飲み込まれそれなりの時間がたったいま、外出しようとしているファースをおばさんは止めてきた。
 「すこしのぼせちゃったみたいなんだ、外で涼んでくるよ」
 熱さを表すため手をひらひらと扇ぎジェスチャーする。
 「そうかい、気をつけないよ。暖かい季節になったとはいえまだ夜は冷えるからね、程々にしなよ」
 おばさんは二重あごをつくり大きく頷く。了解を得たファースは外へと出ていった。
 風の吹かない室内とは違い、冷えた風が軽く吹いている。王都でもはずれに位置する辺りはどこか寂しくもあった。街灯のまったくない通りにあるのは窓から漏れてくる明かりだけ、街を照らしてくれるはずの月明かりは雲に閉ざされている。
 そよぐ風を全身に受けながら、まだ乾ききらぬ髪を弄り真っ暗な 夜空を見上げた。さきほどの予期せぬ出来事は薄れている。
夜空を眺め、雲を見た。そこにあるはずだが見えない月、何気なく月を見たいと思った彼はその能力を発動した。空間を切り裂く一筋の軌跡を残し、雲は難なく裂かれる。別れた雲の隙間から、月はその姿を現した。
 その姿は三日月。雲の隙間から降り注ぐ月光がファースの立つ場所を照らし、舞台を思わせた。真っ暗なステージに一人立つ主人公、そう言った感じ。
 「やっぱり・・・慣れてきてるな」
 口からこぼれる。自分がすこしずつ魔眼を使いこなしつつあることを実感し手の開閉を繰り返した。

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