《MUMEI》 本当にソレでいいのかとも思ったのだが ファファの顔は期待で満ちており その顔を見せられれば断る事など出来る筈もなかった 加えて田畑本人もナベ料理は非常に楽なので割と好きで 彼女の頭に手を置くと、同時に買い物カゴを手に取った 「なら、ナベの材料買いに行くか」 「お鍋で正博君はいいですか?」 田畑の顔を伺ってくるファファへ 頭を更に撫でてやりながら 「勿論。お前、ナベ食ってみたいんだろ?だったら、な」 兎に角、興味を持ったこと全てを経験させてやりたくて 鍋をする際に必要な材料を次々カゴへと入れていった その殆どはファファにとって初めて見るものばかりで 眼が興味に見開いていく 「夕ごはん、とっても楽しみです。沢山、沢山入るんですね!」 「まぁ、今日のは少し豪華すぎるんだけど、お前もいるし、特別ってことで」 偶にはいいだろう、と頭を撫でてやった 特別、という言葉がファファには照れくさく、だがとても嬉しく思えた 田畑のシャツの裾を微かな力で握りしめて ソレに気付いた田畑がシャツからファファの手を解くと自指針のソレの上へと置いてやる 浮かべて見せるは微笑 ファファの大好きな彼の表情 照れてしまい顔を伏せたファファが田畑の衣服の裾を掴むと 「……お腹、すきました」 と控え目な小声 暫く後、頭上から田畑の笑う声が微かに聞こえ頭に手が置かれた 「なら、さっさと帰って鍋でもつつくか」 カゴを揺らして見せながら片目を閉じて レジで精算を手早く済ませるとそのまま帰宅した 買って来たものを食卓台へと置くと 暫く使っていない所為で所在が不明な土鍋を探し始めた その田畑の傍ら、ファファは貰った花の苗を嬉しそうな顔で眺め見る 何の花が咲くのか楽しみだ、との田畑からの声に大きく頷いていた 「……あった。ファファ、これ」 漸く土鍋を見つけた田畑 だがその手には土鍋の他にもう一つ 別のモノが握られている ソレを見、ファファは首を傾げて向けた 「これ……」 「花の苗、ソレに植えればいいだろ?悪い、そんなのしかなくて」 ソレを渡しながら田畑は申し訳なそうに詫びる 可愛らしいクマの形をした鉢植え 気に入ったのか、ファファはその鉢植えをしっかりと抱きしめていた 「とっても可愛いです。正博君、ありがとです」 深々しくお頭を下げてくるファファへ、 「メシ食ったら、植えような」 田畑はゆるく笑ってやりながら言ってやった ファファが、頷いて返すと食卓へと並べられていく鍋の支度 コンロの上に土鍋が座り、様々な具材が入り始めて 立ちこめる温かな湯気にファファはすっかり見入ってしまっていた 「あったかいです〜」 「そうだな。やっぱり今の時期は鍋に限る」 鍋の様子見に箸で中をつついてやりながら田畑は僅かに笑う 穏やかに笑う田畑の横顔に 「正博君は、いつも食べるですか?お鍋」 何となく問うてみれば ファファの器へと具をよそってやりながら 田畑はゆるりと首を横へと振って見せる 「一人じゃ、再々はしねぇかな。何せ鍋がでかすぎるから」 「本当に、大きいです。このお鍋」 「だろ。こんなデカイ鍋に一人分作っても何か虚しいし。けど、これからはお前もいるし、気に入ったんならいつでも作ってやる」 言って終わると同時、温かな湯気を立てている器がファファの前へ 召し上がれ、と差し出されたフォークを受け取ると一口 そこに入っていたポン酢が食べた葛きりに染みていて 非常に美味だった 「美味い?」 問うてくる田畑に眼を輝かせ、ファファは頷いた 「とっても美味しいです」 湯気の向こう側、本当にうれしそうに笑うファファの顔が見える ふわりとした柔らかなひと時 無意識に、田畑はファファの頭へと手を伸ばして 髪を優しく梳いてやった 「正博君?」 どうしたですか、と問うてくるファファに、だが田畑は首を横へ振って見せる ただ、ファファが可愛すぎるから そう本人を目の前にして伝えるのは中々に難しく、笑って誤魔化した 穏やかな時間が暫く、食事の方も済んだのか互いが箸を置 いた 久しぶりに満腹感を感じる 腹が満たされ、眠気が現れたのかファファがあくびを一つ 瞼が眠たげに落ち船を漕ぎ始めていた 「ファファ、もう風呂入って寝ろ。眠いんだろ?」 前へ |次へ |
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