《MUMEI》
決意
 二人が隣で規則正しい寝息を立て始めたのを確認して、ファースはむくりと体を起こした。音を立てぬよう気をつけ、立ち上がると二人の眠るベッドのまえへ。
 「・・・・・・・・・・」
 その安らかな寝顔を見つめる。無防備な寝顔、素のままの彼女たちの姿がそこにはあり、聞こえてくるのは彼女たちのちいさな呼吸音だけ。
 ファースにとって彼女たちは唯一心を許せる存在で、良き友人であり家族だった。不純な水のとなりにいれば純粋な水はそれと混ざり、いずれ不純な水へと変化してしまう。それを阻止するには純粋な水から離れるしかない。
 静かに上下する胸元、形の良い小さな唇が微かに動く。夢を見ているようで、なにかを口にしている様子、自然に目を細め笑顔になってしまう。
 この時だけは彼も本当の笑顔を浮かべられた、いままでの彼は何かに怯え、作り、偽ってきていた。
 不器用な彼は裸の自分を見せることが出来ないでいた、そしてこれからも。

 ――――― ありがとう、・・また・・・・いつか ―――――

 その大切な二人を焼きつけ、彼は部屋から出ていった。

 民家から零れていた明かりも消え去った暗澹たる街を歩いていく。
 二度目の暴走にある種の諦めはついた。自分が人殺しであることも認める。
 真実を隠し続けて楽しい日々を過ごすのもいいと思ったが、そんな風に甘くはいかなかった。この偽りの幸せに浸かっていればその先には破滅しかない。あの衝動が抑えられないこと、そして衝動が無くならないこと。すべては現実で、目を背けることは出来ず向き合うしかない。
 いままでは臆病で、意地汚く自分や世界から逃げてきた。もう十分過ぎるほど逃げた・・・。だからそんな自分とは決別しなくてはならない。現実に立ち向かわなくてはいけないんだ。

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