《MUMEI》
電話の相手
「もしも〜しッ!」
2、3回のコールの後、携帯の向こう側から軽快な話し声が聞こえてきた。相手はどうやら男のようだ。
「中川ですが、どちらさんで?」
「あ…あのバイト募集のチラシ見たんですけど…」
雄太は緊張で強張った声を出した。
「あぁ!はいはい、面接希望の子?」
「いえ…少しお話を…」
「事務所の地図、2枚目に書いてあると思うから明日来てよ!」
「あのッ…」
「あ、履歴書とかいらないから!」
「そうじゃなくて…お話を…」
相手の勢いが良すぎて、上手く会話が出来ない事に雄太は焦った。
「え?何!?」
「ですから、バイトについて少しお話を…」
「悪いっ。今手え離せねぇんだわ!あんた明日もこの時間空いてるよな?」
「あ、は…はいっ!」
思わず自分も相手のペースに乗せられてしまい、つい返事をしてしまった。
「そ。じゃあ明日よろしく頼むわっ!」
「じゃなくて、あのっ…」―プッ。ツーツーツー…―
訂正しようとした時にはもう遅し。相手は既に電話を切っていた。
「ウソ!?どうしよう…面接の約束しちゃった?」
通話終了の報せを映しだす液晶画面を見つめながら、雄太は呆然としていた。
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