《MUMEI》
愛は会社を救う(73)
いつの間にか、傍らには由香里が立っていた。
まっすぐに前を向いて、私と同じ遠い海を見詰めている。
これまでに見た由香里の様々な仕草。
これまでに聴いた由香里の様々な言葉。
それらが鮮明に、頭の中でフラッシュバックする。
「いつから、気付いてらしたんですか」
透き通るほど清清しい横顔で、由香里が訊く。
陽の光に輝きながら、艶やかな黒い髪が風になびいている。
せめて、心ゆくまでそれを眺めていたい。本当はそんな気分だった。
しかし、ここは答えないわけにはいかなかった。
「"私にとって理想の女性像"…」
ようやく発した私の言葉に合わせ、由香里の視線がこちらに向けられる。
その誠実そうな黒い瞳は、最初に見た時の印象と何一つ変わっていない。
「最初に行ったバーで、山下チーフのことをそう言った時。…あの時の、あなたの表情からでしょうか」

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