《MUMEI》
垂れ下がりの午後
「ひで!起きろよ、遅れるぞ?」
「キャハァ〜!」

「へ?へ?…キャハァあ?」

起き上がり瞼を擦りながら目の前を見ると

「なんだその赤ん坊はッッッッ!!」

笑顔全快の赤ん坊を抱き抱える裕斗が立っていて

「なんだって…




俺達の子だろ、



何朝からボケかましてんだ。




秀幸子……」


「ひ、ひでゆきこ?」

「バブゥ!」


俺は恐る恐る手を胸に宛てる。

「ウヒャあッ!おっ、オッパイだぁ−ッッッ!!」

「…いい加減に目ぇ醒ませ、…−ほら朝飯出来てるから早く食え?保育園遅くなるから…」



裕斗は慣れた手つきで赤ん坊を横抱きしながらミルクを与えている。
俺は用意して貰った納豆飯を無理矢理食わされている。

「は〜…、納豆苦手なのに…」

「は?無理にでも食べるって言ったのは秀幸子だぞ?まだ母乳諦めたくねーから納豆食って頑張って出したいって言ったんじゃん」
裕斗は哺乳瓶をテーブルに置き、赤ん坊の背中をポンポン叩きだした。

「ゲフッ!」

「秀斗はゲップが上手でちゅね〜」

とか言いながらテーブル脇にあるベビーチェアに赤ん坊を降ろし、腹回りをベルトで固定した。
そしておしゃぶりを口に突っ込む。


もう突っ込みどころがねー位完璧。

裕斗は正面を向き納豆を掻き混ぜだした。

「ほら早く食えよ」
「うん…」




赤ん坊をチャイルドシートに乗せた裕斗は当たり前の様に運転席に乗り込んだ。
「おい!助手席は秀斗送ったあと!後ろ乗って傍に居てやれよ」
「は、はい…」
すごすごと後ろに乗り込むと裕斗はサングラスをかけて車を発車させた。



「おはようございます!今日はパパとママに送って貰ってよかったわね〜!」
「よろしくお願いします」

裕斗は保母さんに赤ん坊をそっと渡す。
「今日はお迎え5時に来ます」
「はい、わかりました」
笑顔の保母さんは赤ん坊の手を掴み、無理矢理バイバ〜イと俺達に手を振った。

裕斗は何度もお願いしますと言い、保育園を出た。



「こら!助手席になんですわんねーんだ!」
「あ!そっか!」
「全く…」

裕斗は煙草に火を付けてフ〜っと煙を吐いた。

後部席から無理矢理前に行き助手席に座ると

「今日は久しぶりに二人でオフ、秀斗も保育園…」
そう言いながら裕斗は俺の手を握ってきた。
「裕斗…」

…カッコイイ。

俺達を守る父親の顔だ。

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