《MUMEI》
仄暗い夜の殺人
 灰色の雲に月を隠され、星も見えない仄暗い夜がつづく。
 貴族たちの住まう屋敷の中の一つ、その家主の寝室は一本の小さな蝋燭の灯りだけ。大きな寝室には不釣り合いで、多くの家具があるなかでベッドすら照らせてはいない。
 暗い寝室内は綺麗に片づけられており、乱れはひとつもない。
 雲が風に流され、薄らと月光が窓から入り、桟にあわせ十字の影が出来あがる。
 青白く部屋が照らされ、見えてくるものは・・・嗜好の芸術品たち。
 棚に飾られている数々の彫刻や陶芸品、それに床には高級感に溢れた絨毯が敷かれている。そのどれもが統一された色だった。
 真っ赤な絨毯のうえにそれは横たわっていた。感覚などとうの昔に無くなり、残っているのはここに在るという意識だけ。動こうと思い電気信号を送るが動いているのかすらわからない、それは生きているとは言えない状態。
 その意識すらも希薄になっていく。真っ白になっていく意識の中、女の悲鳴が耳に響いていた。
 痙攣を起こしていたモノが止まり、壊れたことを見届けると窓の横に気配もなく立っていた何かは速やかに立ち去って行った。

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