《MUMEI》

結局、乙矢に無理矢理電車に乗せられて訳の分からないまま揺られている。

「二人でデート、久しぶりだよな。」


「デートって……」

乙矢が言うと冗談も本気に聞こえるときがある。


「二郎また痩せたんじゃないか?手首から骨の形が見えるんだけど……やっぱり、隙間空いてる……」

俺の手首を乙矢の人差し指と親指が包む。


「食べてるよ、この間は肉食べたよ肉!」


「嘘、その割には肋の辺りがスカスカしてないか?」

乙矢の手が腹まわりを撫でる。


「やだってそれ!」

擽ったくても腕力では敵わないので中々振りほどけない。
一瞬、この間の嫌な記憶を思い出す。
学生服に付いた染みにビニール袋の息苦しさ……。


「二郎?」

乙矢の声で現実に引き戻された。


「うん、どうした?」


「こっちの台詞だ。」

呆れたように空いてる席に座らされた。


「俺はいつも通りだよ。」

そうだよ、なにも変わらないんだ。


「……そうだな。二郎は二郎だもんな。」

乙矢が頭を撫でてくれた。
犬にでもなった気分だ。
乙矢に飼い主という言葉は嵌まり過ぎる。

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