《MUMEI》
803号室
そんな感じで、相手に上手く丸め込まれ今に至るわけだ。別に無視してもよかったが折角のこの機会、見逃すには惜しいと考えた雄太は、直接話を聞こうと地図に書いてあるこのマンションに来たのだった。
「オートロックじゃないんだ…」こんな立派なマンションなのに何で?と思いながら、エレベーターに乗り込む。
紙によると、8階にあるらしい。
『8』のボタンを押し、エレベーターは上へと向かった。


―チーン―
扉が開くと同時に、雄太の緊張もピークに達していた。いくら自分から来たとはいえ、半ば強制的に来させられた面もある。だから多少不安になるのは仕方がない。
(確か…803号室だったよな?)
紙と扉に書かれている番号を確認する。
(ここか…。)
目的の扉の前に立ち止まり再度確認。

ドクッ…ドクッ…ドクッ…

(が、頑張れ俺!!)

呼び鈴が中々押せない。

ドクッ…ドクッ…ドクッ…

(やっぱ怖い!帰るか?)
後数センチで押せる距離まできていた腕を下ろして、引き返そうとした時だ。
「おい…」
いきなり後ろから声が聞こえた。
「うわぁぁ!」
緊張が高ぶっていた分、リアクションがオーバーになる。
「だ、誰っ!?」
「誰ってお前なぁ…そりゃこっちのセリフだクソガキ。」
ダボダボのジーンズにティーシャツといった、お世辞にもお洒落とは言えない身なりの男が、気怠そうに頭を書きながら雄太の後ろに立っていた。

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