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《MUMEI》 「……蒼、アンタ昨日何かあった？」 翌日の学校・昼休み 昨夜は早々に床に入ったものの中々寝付く事が出来なかったらしい高岡の顔は散々なものだった 髪の毛は乱れに乱れ、目の下には隈 挙句に不機嫌さをあからさまに出したその表情で食事をする高岡に、友人から突っ込まれない筈はない 「遅刻ぎりぎりに来たかと思ったらずっとその顔。いい加減皆怯えてるんだけど」 「え？」 指摘され、漸く高岡は素に戻る 気付けば友人数人から注目され、気付いた高岡はバツが悪そうに顔を伏せた 「で？一体何があった訳？」 暗い表情の高岡とは相反し、問うてくる友人は何故か楽しそうで 一体何がそんなに面白いのかと、不貞腐れる 「私、ジュース買ってくる」 短く呟いて、高岡は食事も途中に席を立つ 小銭を掌で遊ばせながら廊下を歩いて進むと 偶然か、十字路の様な廊下へと辿り着いていた 「な、何？こんな処、在ったっけ……？」 見慣れている筈の其処で感じる違和感 十字路と言うだけで身体が恐怖を覚えてしまう その違和感から逃れたい、と高岡は踵を返した 「……標糸」 背後からの少年の声に高岡の脚は停まる 何故、学校で少年の姿を見るのか 思い当たる事は、ここが十字路になっているという事だけだった 「……アンタ、何しに来たの？」 努めて平静を装いながら少年へと問えば 返ってくるのは嘲笑 生意気そうなその表情に腹が立ち、高岡は少年を睨めつけていた 「そんな恐い顔はするな」 「……なら、私の前から消えてよ。大体、あんた何者な訳？」 「……俺が何者か、知りたいか？」 問うた事に対し、問いで返される 頷いて返してやる事などせず、更に睨む事をしてやれば 少年は薄ら笑いを浮かべながら 「……教えてやらない」 まるで揶揄う様な物言い しかも言って終りと同時に、少年の脚元・影から大量の朱い手形が這って現れた 「また……！」 耳障りな水音を立てながら、段々と詰められていく間合い 脚を掴まれ、高岡は床へと尻もちをついてしまう 「痛ぁ……」 痛みに顔を顰めているその隙を借り、朱達は高岡を取り囲んで 腕に脚にと纏わりついてくるそれらに、だが高岡に抵抗する術はない 「……惑わす、標糸。断ち、斬らないと」 全身を覆い尽くしていく朱 成す術のない高岡は、自身に群れる朱を唯々眺めるしかない どうすればいいのか 考えを一応は巡らせてみるものの、やはり何も思いつく事は出来ず 恐怖に身を震わせるしかなかった 「……けて。助けて!!」 何もなく、人の気も感じられないそこでの訴え 答えて返る声など無い筈のそこに、突然の突風が吹きつけたのが直後 風に中てられ閉じていた眼をゆるり開けば 目の前に、着物の後姿があった 「……邪魔が、きた」 少年はまるで無感情な声を男へと向ける およそ子供らしくないそれに高岡は更に恐怖ばかりを覚え 男へとしがみついていた 「……外に出んなって、言付けた筈だが?」 少年を正面に見据えたまま、男は高岡へと呆れた様な声を向ける その肩の上にはあの小太りな猫 高岡と眼が合うなり、その猫は男の方の上から降り高岡の膝の上へ 「いいぞ、三成。存分にやれ」 丸い見た目通り重い身体が膝の上へ乗り、全身の毛を逆立て始める 途端に重苦しいばかりだった空気が消えて失せ 代わりに薄い膜の様な何かに覆われる それを横眼で確認した男は徐に扇を広げ 大量の朱を飛んで散らすと少年との間合いを瞬間に詰めていた 迫ってすぐに、開いたばかりの扇子をすぐさま閉じて 男は拳を握るとそれを容赦なく少年の鳩尾へと打ち付ける 派手な音を立て壁に当たる幼い身体 だが少年は痛みに顔をしかめる事もせず無表情のままだ 「何で邪魔をする？皆、此処を離れたくなどないと思ってる。標糸なんて必要ないのに」 少年の何も感じられない程冷めた声 小声で呟き、そしてその姿は消えていった 朱が一面に染み付いてしまった廊下 その中央で呆然と座り込んだままの高岡の頬へ 前へ |次へ |
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