《MUMEI》
遠くない過去
 暗澹としていた王都を温かな光が照らしはじめる。透き通る空気を吸い込みつつ昇りくる朝陽を見つめていた。日は変わり、あまり実感はないが世界は前へと進んでいる。ならば彼も進まねばならない。輝きに目が眩み視界は光に包まれ、身体もその温かさに包まれる。
 「あまり、時間はないんだ・・・今日で決めてやる」
進みゆく時間に置いて行かれぬよう、彼は歩み続けるしかないと心に言い聞かせた。

 宿を出たあとのファースは眠ることをしなかった。手頃な腰かけを見つけ、静かに朝が来るのを待ち続けている。こうしている今も、彼は彼女たちを思い、昔を思い出す。
 それはあまり遠くない過去のこと・・・。
 王都の門をくぐり、明るい未来に思いを馳せていた。目にするもの全てが新鮮で、発見の連続。見たことのない大きさの建造物。多くの人。ファースの世界は大きく広がっていく。
 ファースの生まれはシュトラーブルクでも外れの辺境の地で、特出するものの無い動植物たちの楽園だった。小さな村で、農耕や家畜でその村は成り立っていた。そこだけで完成された国、あるいは世界。生活に何の不自由もなく、自分の食べるものは自分で作る自給自足。何時からだろうか、繰り返される日常の連鎖に彼は違和感を感じ始めていた。
 朝から晩まで土いじりに精を出し、獲れた獣や採れた野菜で腹を満たす。変化の無い日々、あったとしてもほんの些細な事件。村人が怪我をしただとか、大きな獲物を捕ったなど。
 だからだろう、彼はそんな面白くない繰り返される日常に飽き、いつの間にか外の世界を歩いてみたいと願い始めていた。心境の変化は何かしらの形で行動に移すことを急かす。
 その願いは親との激しい口論の末、村を飛び出す形で叶った。そうして一人王都コレストシークを目指し、旅を続けていた。

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