《MUMEI》
・・・・
 彼女と出会ったのも王都へ向かう途中だった、村から王都へは陸続きになっており必然的に街道を歩くこととなっていた。田舎であるがため街道といっても全く舗装されていないのが事実、でこぼこのぬかるんだ道。
 歩く距離に合わせすこしずつ平坦になっていく街道、それが町が近いことを現わしていた。
 村を出て三日、初めての『町』と呼べる密集地を見た。ファースにとって村以外の人の住む場所に入るのは初めてで、右も左もわからなかった。
 「・・ここが、町」
 自然と言葉が漏れた。目を輝かせ、見回す。どこにでもありふれる小さな町だったがファースにとっては大きかった。村とは比べ物にならない人口に、見たことのない建築法で建てられた家。高まる気持ちは治まるところを知らない。
 住民からすればさぞ可笑しかったであろう、十八にもなる青年が町の入り口で物珍しそうに民家を見て回って、納得がいったように頷いている。自然と視線はファースに集まっていった。
 「この町、そんなに珍しい?」
 声に振り返ると、そこには一人の少女が笑顔で首をかしげていた。同じくらいの年だろうか、栗色の長い髪の少女の手には一輪の小さな花が握られていて、甘い匂いが漂ってくる。
 「ああ、初めてなんだ。こういうところは」
 恥ずかしく思い頭を掻き、明後日のほうに顔を向けた。そんなファースを見た少女はくすりと笑うとある提案をする。
 「それなら、私でよかったら案内してあげるわ、すごくいい場所知ってるのよ」
 回り込まれ、顔を覗かれた。少女の大きく浅い栗色の瞳が彼を見つめる。そのなかには自分の顔が映っていた。この町のことも、外のことも知らないファースに断る理由はなく、彼女の厚意に甘えることにした。
 彼女に案内され町を練り歩く。町の表通りは賑やかで、子供たちが元気に走り回っている。
 「子供はどこでも元気なんだな」
 横を走り去る子供たちを村の子供たちとくらべてそんなことを口にした。
 「当然じゃない、子供はどこも同じ。元気が取り柄なんだから、あなただってそうだったんでしょ」
 「ん、そうだな。今思えば酷かったな、村でも一番の悪ガキだったよ。村長の折り紙つきでさ、会うたびに言ってくるんだ。『いい加減にしねえと許さんぞ』ってさ」
 「あははっ、すごく悪かったんだ。確かにそうだね、そんな顔してるわ」
 これはさっきとは違う笑い。
 「そんな悪人面でもないだろ」
 少し怒った風に言う。
 「ごめんなさい、冗談。その話もっと聞かせてもらってもいいかしら、すごく興味あるの」
 そんな風に言われて断れるわけもなく、ファースは思い出しながら話をすることに。

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