《MUMEI》
・・・・
 「・・・俺の家は小さな村にあってさ、村全体が家族みたいなんだ。だから、他の家の人にだっていたずらの容赦はしてなかった。みんなの驚く顔や、困った顔、怒った顔が面白くてやめられなかったんだと思う。
 ある日思いついたんだよ、鍋に幼虫を入れたらどうなるのかって。考えてると体が勝手に動いてよ、林の中まで行って腐敗した木の中に隠れてる幼虫を片っ端から捕まえてったんだ。その数なんと十二匹、驚きだろ。気持ち悪いったらないよな、今の俺だったらあんなこと考えもしねえよ」
 ファースの話に夢中になっている少女は尋ねる。
 「それで、本当に鍋の中に入れちゃったの」
 目を輝かせ、少女は結末を急かしてきた。彼は話を続ける。
 「まあ取った幼虫たちを家まで持ちかえったんだ、母親はちょうどそのとき留守でさ、絶好のチャンスだと思って煮えてる鍋へ一直線さ。
 だけどさ、結局その試みは上手くいかなかったんだ」
 「どうして?」
 「父親がいたんだよ、部屋に。それに気づきもしないで入れようとしたもんだからビックリしたよ、首根っこ掴まれて宙に上げられて『それをどうするつもりだ』なんて聞いてくるんだ。それで正直に話したらゲンコツ喰らっちまった」
 思い出し笑いをするファースを少女はおなかを抱えからからと笑った。想像以上に受けたことに驚くファースだが、少女は笑いを堪えながら尋ねた。
 「ねえ、こういうときにする話、失敗談にしちゃってよかったの。私だったら成功談にしちゃうんだけど。
 まぁそれが面白かったんだけどさ」
 少女に指摘され、そう言えばそうだと思った。こういう話のときは成功した話でからかい合ったりしてたような気がする。だからと言って今更認めることも出来ない。ファースは引きつった笑顔を作り言い繕う。
 「そ、そんなことないさ。失敗談だってしっかり笑いをとれる力があるんだ、現にお前だって笑ってたじゃないか」
 「確かにそうかも知れないけど、負け試合で笑いを誘うなんて格好良くないと思うわ。だって今の話、すこし設定を変えれば負けて同情を誘っているようなものなのよ」
 強気な少女に言葉に圧されるものの、何とか勝ちたいという気持ちがある。
 「そんなことないよ」
 精いっぱい一言だけ言葉にした。しかしその一言で少女が納得するわけもなく、
 「本当に?」
 「・・・本当に」
 「ほんとの本当に?」
 迫力のある声で言いよってくる少女に、意気消沈していく。自信を失い頼りない表情になったファースは負けを認めざるを得なかった。
 「・・・負けました」
 がっくりと肩を落とした少年に、少女は勝ち誇り胸を反らした。
 「わ、悪かったな。生憎俺は話上手じゃないんでね、笑いたいんなら他を当たってくれ」
 開き直り、そっぽを向き歩くスピードを上げていく、少しずつ離れていくファースを少女は早足で追いつき、申し訳なさそうに謝る。
 「ほんっとごめんなさい!」
 手のひらを合わせる。しばらくその姿勢を崩さなかったが、やがて。
 「・・・・・だけど、やっぱり面白いくて、あははっ!」
 謝っておきながらまた噴き出す少女、彼は少女の顔を見て抗議する。
 「そんなに笑うこと無いだろ、俺だってあれで一生懸命話したんだからな」 
 何を言おうと少女の笑いが止まることはなく、しばらくの間瞳に涙をためている少女のとなりを渋い顔で歩くこととなった。

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