《MUMEI》
崩壊への序章
 ファースがいないことに気づいたのはクレアだった。寝癖が無いか、セミロングに整えられた髪を手で梳きながら起き上り、カーテンで閉ざされた朝日を拝むためベッドからでる。
 あくびを一つして、カーテンをさっと開き眩しさに目を閉じた。昨晩は雲があって今日の天気に不安を感じていたが、クレアの杞憂ですんだよう。
 例のごとく朝に弱いメリルはベッドの中で気持ち良く寝息を立てている。寝像は悪くないようで、シーツを首まで掛けて左向きになっているだけ。
 いつもの朝の光景に安心して恒例の二人を起こす作業から始めようとして、ある異変に気づいた。
 「あれ・・・」
 ファースが居るはずのソファーには何もなく、忽然と消えている。いつも鼾をかいて寝ている彼がクレアより早く起きることなんてことは一度もなかった。
 散歩にでも行っているのか。彼だって早起きすることはあるだろうと、少し気にする程度で深刻に考えなかったクレアはメリルを起こすことにした。
 「メリルちゃん、起きて。今日も天気がいいみたいだよ」
 肩を揺すられ眉が微かに動き、眠りから覚めようと頑張っている。
 「・・う、うぅん。もう朝なの」
 瞼が重たく、上手く目を開けないでいるメリルは目を擦り刺激を与えながら起き上った。眠気眼でクレアの顔を見て、おはようと挨拶をする。もうすっかり目の覚めているクレアは満面の笑みで答え、食事の準備に取り掛かるため台所へと向かう。
 ベッドから這い出て、寝間着の乱れも気にせずおぼつかない足取りで顔を洗いに。顔を洗い意識がしゃっきりして振り向き、メリルも異変に気づく。異変の理由を知っていると思いクレアに声をかけた。
 「ねえクレア、ファースがいないんだけどどうしたの?あいつにしてはすごく早いけど」
 「やっぱりメリルちゃんもそう思う」
 台所で野菜を切っていたクレアは手を止め、メリルのほうを向いた。メリルは足を止めクレアの様子に戸惑った。理由を知っていると思い聞いたのだがクレアすら知らないとは。
 「え、ちょっと待って。メリルちゃんもってことはクレアも知らないの?」
 「うん、私が起きた時にはもう居なかったんだ」
 クレアも不思議に思っていたため、二人で顔を見合す。
 「朝早くにどこ行ったんだろ」
 「というより、あいつがこんな早くに起きられるはずがないわ、何か嫌なことの前触れなのかも」
 本気で不吉なことの前兆だと言い張るメリルに、クレアは半笑いで「それはないと思うよ」と軽く否定した。珍しくはあるが、そこまで騒ぐことでもない。
 「そうかしら、考えてもみなさいよ。あのファースがこんな時間に起きたことが一度としてある?それも自発的に。私たちが怒鳴ったり叩いたりしても起きないようなあいつが・・・考えられないわ」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫