《MUMEI》
「序章」
 私はそこにいた。
 ランプは決まっているようにサイレンを鳴らし、やがては止まる。大きい道路に目立って光っている。歩いていた人たちは歩くのを止めてその一部始終を見ていた。
 それら視線の先には、白い箱に赤い十字を付けた車があった。中から緑の衣装が現れて台を運ぶ。彼らは何かを乗せてゆっくりと車の後ろに入れた。
 そして間もなく、甲高いサイレンを鳴らして走り去っていった。




「ふぁああぁ……。眠い……」

 俺はビーチサンダルを履いて、目の前の鉄の青い玄関を開けた。ちょっと重いが筋トレの一環と思えば辛くはない。そして外に出る。朝日が目に突き刺さり、俺は手で遮った。それで眠気が三割ほど取れる。
 俺が住むマンションは三階十九室でちょっと小さいが、ここ最近に造られたものだ。しかも家賃が安い、住みやすいとグレードが高い。ただなぜか、階段がコンクリートでなく、鉄板を何枚も張り付けたようなタイプだったのが気になる。でも俺的にはかなり気に入っている。
 その階段をテンポ良く降りていく。その度にくぐもった懐かしい音を奏でる。
 “通称”庭についた。ここの管理人はこのわずか畳五条くらいのスペースと三つの花壇を“庭”と呼ぶ。ちょっと可愛い。
 そこを眺めながら目的地へと向かった。約五秒くらいで着いた。

「俺のは……、これだ」

 三行六列に並ぶうちの二行三列目の郵便受けに手をかける。解りづらければ真ん中の行の左から三番目だ。余計わかりづらいか。
 番(つがい)が軋みながら中身をさらけ出す。中身は新聞紙と一枚の高級感溢れる手紙だった。

「どれどれ?」

 蝋で固めた折目の中心にある模様をきれいに切り取り、中を拝見する。そこにはこれしか書いてなかった。


[あなたは死にます。]

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