《MUMEI》
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 今日は休日、王都はいつも以上に活気に満ちている。道行く人はめかし込み、特別な日仕様の服を身に纏っている。平日なら手間でしないような少し時間のかかるものでも悠々と時間を使い、それに専念してきたようでみんなが少し浮き足立っているように見える。そのなかをファースは恐ろしい形相で歩いていて、今日という日に最も不釣り合いな存在だった。冷めた目に一つに結ばれた唇、けして周りに流されず口元を緩めることはしない。
 鬱陶しそうな瞳で人々を一瞥しながら、すべてを嫌うように、突き放すように。幸福で温かな空気を瞬間冷凍し、不幸な冷たい空気に冷やしていく。幸福がいけないわけじゃなくて、それに甘え続けている奴等を見ているのが耐えられなかった。世界はいつまでも優しいわけじゃない、間違ってそうはき違えている奴は大勢いて、そいつらは自分で包み隠しフィルターを二重にも三重にもかけて目を背けているんだ。自分はそう出来なかった、気づいてしまったから。あまりにも世界が自分に冷たいことに。
 足を止めたのはある場所にやってきたからだ。何ということの無い店の前、壁は汚れていて掃除は行き届いておらず、店主のセンスを疑ってしまうほど店内の趣味も良くない。高級な店でもなければお気に入りの店でもない。ここは少し不思議な少女と出会った場所だった。
 陰鬱だった瞳に光がさし、心なしか表情が和らいだ。微かだが唇の両端が上がったのがわかる。立ち止まり、人々の往来が薄くなっていきそこには味気ない店と少女たちの姿が浮かび上がった。

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