《MUMEI》

携帯が鳴っている。着信音1は家族だ。

「……出ないの。」


「いい。」


「出ときな、急用だったら大変だし。絶好のタイミングってのは逃したら二度目はないからね。」

妙な説得力のある言葉で思わず電話を出てしまった。


『あんた昨日出掛けるって約束したのに黙って友達の家に泊まったでしょう!』

……最悪のタイミングだった。


「……別にいいよ」


『良くないっ!折角、二人で映画鑑賞の予定だったのに!』

耳をつん裂くような高音で喚かれる。


「今日は映画祭か何かなのか?」

やたらと映画に縁がある日だ。


『えー、何?折角、話題の〔ゆめのつづき〕の券貰ったのに〜……』


「いやいやいや、今日観たから。しかも身内で恋愛モノとかイタ過ぎるわ。」

しかも二回も。


『えー、ずるい!面白かった?』


「ん……感動したね。」

ちらりと、高遠を盗み見て感想を述べてみた。


『なによ、彼女と観たの?』


「……んー。そう。」

彼女……だったはず?
目の前の男を見ながらしばし考え込んでしまった。


「へー、あんたの彼女って随分デカイねー?」

電話越しでなく、真横から声がする。


「なつめ……!」

迂闊だった、近くに居たなんて……。

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