《MUMEI》 腕に鈍痛を感じてやっとのことで体を起こした。負担にならないように右側に重心をかけてやっと起き上がることが出来た。 殺風景な部屋に浮かび上がるmetallic blueの鮮やかな空間。タイやインド、スマトラなど南アジアを切り取ったこの世界は角度を変えた光で見事に私を魅了してくれる。 少なくとも、あー生きていてよかったのかもしれない。そう思い込める瞬間にしばらくの間、陶酔していた。 部屋の中は冷えてるのに体は妙に熱を持っている。麻酔から覚めてゆくように再び現実に引き戻されてゆく。消毒しないと… 起き上がる瞬間に何かが指先に振れた。 何コレ? アノあと私はいつもこうやって自分を一度殺す。頭の中のドロリとした感覚は私の思考をいつも狂わせようとする。 汚れた世界と決別を胸に手首に突き立てる鋭利な刃、記憶を司る脳が思考を狂わせボロボロになって私自身を早く壊してほしいと願う。身震いするほどの猛りは、いつか神にも届くのだろうか? 真っ赤な深紅の血を見ると心から安心する。汚れた私はホントは消えなくてはいけない存在なのに、何故かこうやって感覚持って生きちゃってる。 これはきっと神から下された罰? 繰り返しこうやって自分を殺して体中の液体の流れを変える。そう、洗礼なる儀式よ。 誰にも邪魔されないこの空間は私だけの世界。記憶の断片。死と隣り合わせのlover history。この世はギブスを身に付けていないと何も出来ないのだから。 この間病院で縫ってもらったときは麻酔を打たないでって頼んでみた。さすがに冗談じゃないって怒られた上、仕方なく麻酔を打たれて縫うことになってしまったよ。 パックリとクチが開いた状態はかなりエグイから誰にも見せられないし、一生長袖は手放せないと病院に来るたび思う。 ホントに生きにくい世の中だよねー人間は面倒だなあ。いっそすべてが樹木や鳥や動物だけで、人間なんてモノは無かったことにしてくれればいいのに。そう思うと少しだけ心がラクになる。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |