《MUMEI》

バックから外して彼女に差し出した。美羽はただでさえ嬉しそうな顔をよりハッピーにして、子供が新しいおもちゃを見つけたように瞳をパチクリして喜んで自分のバックに付け替えた。

 きっとこれも飽きられたら、また捨てられるんだろうなあー
 一瞬編みぐるみの哀しそうなblueの瞳を見て上げてしまったことを後悔したけど、落とされた物だから、きっと自由の身で居たいのかも知れないーと自分を重ね合わせてそう思い込もうとした。

 学校から街中にむかって商店街沿いに歩いてゆくと、何度か訪れたことのある美羽の家族の住む家へ。非の打ち所のない家族。叱ってくれる優しくもキビシイ母親。帰りが遅くなるとしっかり門限をうるさく叱る父親。当たり前の食卓にリビングでの団らん。彼女は幸せと名の付く物はすべて手に入れていた。
 嬉しそうに手を振って大通りを渡ってゆく美羽。別にたいしたことはない、いわゆる普通の絵に描いたような光景。非の打ち所のない美しき愛に包まれた家族像。

 記憶が私をもうろうとした世界へと引きずり込もうとしている。苛立ちを抑えきれないーと思うと、アタマの中にゼリー状の液体がドロリと流れ込む。

イヤだ、またこの感じ…

 ルナはしばらくしゃがみ込んだまま、その場を離れることは出来なかった。

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